信じ合えるならば
芽が吹きうらら輝く春、蝶は花から花へと飛びさまよう。
冥界の蝶・・・地妖星パピヨンの冥闘士も、地下にはない花を求めてそぞろ歩いていた。
(桜、か)
特に珍しくはない。ハーデスの下に仕える以前から、季節が巡るごとに眺めていたはずだ。
だが、こまかな花たちを月光に照らさせ、空間に広がりを作ってたたずむ姿は、ミューの心に圧倒的な存在感をもって迫ってくるのだった。
欲していたのは、これだったか・・・?
別の樹にもたれ、やや遠くからその全体を眺める。
夜闇にほの白く浮かび上がる桜に、なぜかぞっとするような連想が働き、自嘲を誘う。死界の住人が、花の妖に魅入られるなど。
それでも鎮まらぬ心のさざめきは、酩酊感にも似ていっそ快かった。
ミューは不可思議な感覚の中、件の桜のもとに目を転じる。
そしてそこに、を見つけた。
「夜にひとり歩きとは、感心しないな」
幹にもたれて並び立ち、互いに名前だけを名乗った。
「そうね桜は少し怖い」
夢見るような口調の中に、神へ抱く畏怖がある。
は白い服を着て白い肌をして、ほんとうに桜のような娘だった。
「怖いのは、桜だけ?」
しなやかな腕を引きつかむ。手折ることすらいとわぬ強さで。
「・・・ミューは、怖くないわ」
ほころぶ瞳に、捕らえられたのはむしろ自分の方なのだと知らされる。
蝶は花に惹かれ−。
色と香りと蜜に、溺れる。
甘い唇を吸って、花弁のふしどに身を重ねた。
枝花の陰で月の目からも逃れ、陶然として睦び合う。
宵深くなり、花が冷えても尚離れずに。
名前しか聞かなかった。
一夜の夢、一瞬で散る恋・・・花のように。
でも、もし、信じ合えるならば。
同じ樹の下に、の姿を見る。
「」
春嵐の中、固く抱き合った。
一瞬の中に永続性を、根づいたものを見つけて、信じ合えるならば。
春に新しい恋が咲く。
・あとがき・
ポエムだわ。
桜が大好きで、桜のおはなしを書くのも大好きで、これまでもオリジナルから二次創作からたくさん桜をモチーフに書いてきました。
特にこの、寒さ厳しい時期に書きたくなるのよね。ウズウズする。
ミューは書いたことのない中で読みたいキャラ投票、第二位になったキャラです。
最初はネタが出来るかな? と不安だったけど、蝶なので花にからめやすいと思いつき、組み立てました。
「どうしてもミューでなければいけない」というドリームにはならなかったかも知れないけれど、これはこれで。
あ、「冥界の蝶」はフェアリーでしたね。まぁいいか。桜にちなんだこういう文章は、私にとってのスタンダード。今まで書いたことのある短編をなぞって書いた感じです。目新しくはないけれど、愛着があります。
好きな形なら、何度書いても飽きない。
夜桜とか桜の魔力とか、ホント何回も書いてるなー。ミューのあの戦い方を見て、さすがに不気味だと思ったものですが。大全を見ると、冥闘士というのは冥衣の能力を発揮するための媒体といえるものだそうで、つまりあれは全部冥衣の特殊能力なんでしょうね。
とはいえ、ちゃんもミューのあの形態を目撃したら、気持ちが変わっちゃうかも(笑)。
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