寂しいね。
今日も、瞑想をしている。
処女宮の中ほど、いつもと同じ場所にきっちりと座禅を組んで、常のように目を閉じて。神に最も近い男は、ぴくりともしない。
彼にとって、自分など、ここにいないのも同然なのだろう。
存在を意識すらしてもらえない。
それはなんて寂しいこと。
無我の境地から立ち戻ると、現前にはがたたずんでいた。
無論、瞑想の最中であっても、彼女が通り過ぎるときにはそうと認識していた。今日に限ってはすぐに立ち去ることなく、ずっとそこにいることも。
用向きは何かと尋ねる前に、
「・・・寂しいね」
ひとこと、そう呟くと、はふいと、立ち去った。
それ以来、彼女はぱったり来なくなった。
シャカは変わらず務めをこなし、空いた時間は瞑想などにあて淡々と日常を消化していたが、一日、また一日と過ぎるごと、眉宇に愁いを漂わせることが多くなった。
あのとき、が落としていった言葉が、多分同じ重さで、胸にひっかかっている。
−寂しいね−
「私としたことが・・・」
こんな感情は、最もふさわしくない。
迷いと煩悩を生むだけなのだから。
「所詮は私もただの人間ということか」
でも、悪くはない。本来邪魔なはずなのに、不思議と煩わしくはしない。
シャカの唇は、笑みを形作っていた。
どうしたことだろう。シャカが、自宮に自分を呼び出すなんて。
恐る恐るといったていで処女宮に顔を出したを、シャカはごく普通に迎え入れてくれた。瞑想をしていないシャカは珍しい。
「きみがあのとき言い残した言葉について、聞きたくてね」
−気にしてくれていた?
それだけでには大きな驚きだった。
関心などかけらも向いていないと思わせながら、あんな小さな言葉を、拾っていてくれていたなんて。
心に湧いた喜びを弾みにして、は思いのたけを言い募る。
「だって、いつ来てもシャカは仏像みたいにじっとしてて、話もしてくれないし。私がいても空気くらいにしか思ってないのかなって・・・寂しいじゃない」
「ふむ。私は全く、寂しくなどなかったのだが」
しれっと言い切られて、あぜんとしてしまう。何か返そうとする前に、再びシャカが口を開いた。
「私が寂しくなかったのは、きみが来てくれていたからだ。来なくなってから初めて私も寂しいと感じた。・・・さて、」
正面を向いたシャカが、少し含み笑いをしていることに、は気がついた。
「お互いに寂しい思いをしないために、どうすればいいと思う?」
「・・・そんなの、私に言わせるのは、ズルイんじゃない?」
も笑う。
どちらからともなく、近付き合い、手に手を重ねた。
そう、これが、答え。
寂しくなくなるための、最良の方法・・・。
「さあ、、目を閉じて」
まるで自然な、優しい声に誘われて、はまぶたを閉じる。
(も、もうキスっ!? シャカって潔癖そうだと思っていたのに、意外に手が早かったのね・・・)
もちろん、嬉しいけど!
シャカはそっと手を離した。その手が肩に回ってくるのか、それとも背中か腰か・・・期待しながら待つ身体が、ぞくぞくとくすぐったい。
ところが、いつまでたっても、何も触れてこない。唇はおろか、肩や背中にすら。
(・・・?)
そっと、目を開ける。と、背筋を伸ばして蓮座に座っているシャカがいた。
(めっ瞑想してるっ!?)
ぽかんと口も開けてしまったに、厳しい声が容赦なくかけられる。
「何をしている。初心者とはいえ、雑念が入りすぎだぞ。心の中を空っぽにするつもりでやってみたまえ」
「えっ、一緒に瞑想するの?」
「む、瞑想は好まぬのか。ならば読経をしようではないか。それとも写経のほうがいいかな?」
「シ、シャカ・・・」
「一緒にやれる相手がいるというのは、いいことだな。こうしてがここにいてくれると、以前の私は寂しかったようにすら思える」
嬉しそうな笑顔だった。
それはもう、がとろけてしまうくらいに。
(でっでも、気持ちが通じ合った男女が瞑想やら写経ってのは、どうよ)
気を取り直し、はシャカに近づいた。目では見ないシャカは、今の自分をどんなふうに感じ取っているんだろう。そんなことを考えながら、半ばふざけかかるように身を寄せる。
「瞑想よりも、ねぇ・・・」
恋人同士ならではの甘い時間の過ごし方を教えるのは、どうやらこっちの役目みたい。
きっと離れられなくなる。
寂しいね。なんて、二度と言わない。
・あとがき・
「寂しいね。」は、元々は任意キャラドリームでやろうと、かなり前にネタを考えていたのですが。
投票所で「いつも瞑想しているシャカに寂しいヒロイン」というコメントをいただき、即、変更となりました(笑)。
何だか、自分の中にすっと入ってきたんですね、そのネタが。
シャカドリームは本当に久しぶりで、二本目なんですが、書くのが難しいと思っていたシャカを、案外さらりと書くことができました。
コメントくださった方、本当にありがとう。このドリームを貴女に捧げます!
H17.2.18
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