プレゼント
今夜は、二人で過ごす初めてのクリスマスイヴ。
当然、朝まで甘い時間を共有できると思っていたのに・・・。
「ごめんなさい。友達のところに泊まるって言ってみたんだけど、どうしてもお母さんが許してくれなくて。もう帰らなきゃいけないの。本当にごめんなさい!」
顔の前で両手を合わせる「ごめんねポーズ」で、それでも大して残念そうでもなく、は部屋を出て行ってしまった。
「・・・なんだ」
数日前には、お泊りOKって言っていたのに。
しかし怒ったり泣きついたり強硬手段に出たりするほど若者でもないから、シオンは黙って見送り、さっきまで一緒に座っていた場所に腰を下ろした。
「箱入り娘には、かなわぬな」
ひとりごちるにつけても、残念だし、寂しい。
また次がある、と思おうとするが、やはりやるせないのだった。こんな行事にこだわるのはおかしいと、分かってはいても。
(いつの間にか、多くのものを望むようになったのだな)
地上に平和が戻り、自らも復活して、親友と本当の意味での再会を果たし。
という何にも代えがたく愛しい存在と巡り合えた。心を通い合わすことが出来た。
願ってもみなかった僥倖だと、深く感謝していたはずではないか。
(これ以上、何を求める・・・。の心が私のもとにあるなら、十分なのに)
シオンは残された二つのシャンパングラスを眺め、ふっと口もとを緩めた。
童虎は休暇を取って弟子たちと一緒にいるはずだ。他の者たちも、それぞれ大切な人や仲間同士で楽しい夜を過ごしていることだろう。
そのさまを思い浮かべるだけで、教皇として満たされた気持ちになれる。シオンはそんな自分に満足していた。
飲み残した酒を傾け、窓の外に目を向ける。
今宵は一人静かに過ごそう−。
トントントン。
向こうの窓が鳴っている。
一人になってから小一時間ほど経ち、シオンもそろそろ床に就こうかと思っていた頃のことだ。
不審に思い立ち上がると、窓の向こうに可愛らしい顔が見えた。
「!?」
光速かと思われる速さで窓に取り付き、多少手間取りながら開け放つ。とたん、寒々しい音と同時に外の風が鋭く吹き込んできた。
「そんなところで何をしている、中に入らんか、」
「私はじゃなくてサンタクロース!」
寒さを感じていないはずはなかろうに、は明るい声を出し、赤い鼻をしながらも楽しそうに笑っている。
よく見ればサンタさんの帽子をかぶり、白い襟のついた赤い服に身を包んでいる。白い袋も背負っているようだった。
「煙突がないから窓から入ろうと思って」
「・・・」
「サンタクロースだってば」
びっくりさせて、楽しませてくれる。いつもいつも。いたずらっ子のようでありながら、それは自分に対するサービスでもあると分かっていたから、シオンは嬉しくなった。
両腕を窓の外に差し伸ばし、サンタ服のわきの下を支える。そのまま抱き上げ、部屋の中に入れた。
「寒いな・・・。こんな中に立っていたら風邪をひくだろう」
ひゅう、と突き刺さるような風に身を震わせ、独り言のように呟きながら窓を閉める。振り返ると、可愛いサンタに笑顔を向けた。
「こんな年寄りのところにまでも、サンタクロースが来てくれるとは思わなんだ」
「サンタさんはいつも良い子の味方なのよ」
ウインクして袋を下ろす。ものすごく巨大だが、サンタの袋という割には空っぽであるらしく、へたりと床に広がった。
「しかし、そんな格好で・・・」
衣装は女の子用で、肘上までのアームウォーマーをつけてはいるものの半袖だった。赤いスカートは膝上の短さで、黒ベルトの下からふわり広がり、白い縁取りが施されている。
網タイツに赤のロングブーツの脚まで見下ろせば、もう寒そうだというよりは可愛らしさに負けてしまう。シオンは思わず見とれてしまっていた。
「プレゼントをあげに来たの」
布袋を掲げて見せる。持ち上げてもまだ床に引きずるほど、それは大きかった。
「何も入っていないようだが」
「そう思う?」
また何かを企んでいるような笑みをこぼし、はやにわ袋の口を広げると、自分でその中に入ってしまった。
「ばいばーい」
にっこり手を振ると、頭まですっぽり潜り込み、口を閉じてしまう。袋の口には紐が通してあるらしく、巾着袋のようにきゅっとすぼまった。
「待っててね〜」
白い袋がもぞもぞ動く。シオンは腕を組み、手品でも見るような気持ちで待っていた。
は面白いことが大好きで、遊びや楽しみのためなら手間隙を惜しまない。
そういったものは、決して無駄ではなく、繰り返す日常に必要な余裕や潤いなのだと、シオンにも気付かせてくれていた。
日々がハードであればハードであるほど、そういうものにホッとする。そしてそのたびに、かけがえのない存在なのだと再認識させられる。
「いいよー。開けてみて!」
一段と弾んだ声が、袋の中から上がった。シオンはひざまづき、プレゼントの袋に手をかける。一気に引き開けると、の満面の笑顔にぶつかった。
「プレゼントだよ!」
ピンク色の頬してどこか照れているようなの頭に、さっきの帽子はなく、代わりに大きなリボンが飾られている。見れば頭だけではない。さっきの衣装を全て脱ぎ捨て、体中に赤と緑と金色の幅広リボンを巻きつけた姿で、はしゃがみ込んでいた。
別に素肌に、というわけではなく、ちゃんと下にTシャツを着てはいたが、その格好が何を意味するか、理解に苦しむようなシオンではない。大げさなほどの笑顔を見せ、大仰に両手を広げた。
「これはこれは・・・、最高の贈り物ではないか」
「でしょ!?」
自身が、クリスマスプレゼントだなんて。
「先ほどのサンタクロースに礼を言おう。どこに行ったか知らぬが」
恐らく生まれて初めて、シオンはサンタさんに対し感謝の言葉を口にした。
「サンタさんは忙しいから、他の子供たちのところに行ったのよ」
「では二人きりだな」
「うん」
少し恥らって、ますます赤くなる。そんなを、シオンは軽々抱き上げた。
「門限は?」
「ちゃんと、友達の家に泊まるって言ってあるわ。シオンをびっくりさせようと思って、さっきは嘘を言ったの」
「悪い娘だ」
「ふふふ・・・私のところにはサンタさん来ないかも。でもいいの」
両腕を彼の首に回して、自分から少し顔を近付ける。
「シオンがいるから、いいの」
「可愛いことを言うではないか」
その口に軽いキスをして、ベッドに降ろす。
「せっかくのプレゼントだ、有難くいただくとしよう」
急がずゆっくり、ほとんどじらすようにゆっくり、リボンをほどいてゆく。
その胸元に、銀色のチェーンが光っているのを見て、シオンはにっこりする。
ハートのモチーフが揺れるプラチナのネックレスは、今日にあげたばかりのものだ。
「よく似合う」
アクセサリーが触れている肌の辺りを、唇で軽くなぞる。それだけで反応を見せる小さな身体が、愛しくて愛しくて。
それからは、溺れるみたいに、互いを求めた。
動くたびに、緑と赤と金のリボンが素肌にまとわりついた。
「シオン・・・」
「まだ許さんぞ」
最上の満足を与えられてぐったりとした身体を、また引き起こされる。
「プレゼントというからには、朝まで付き合ってもらわぬと」
「・・・タフだね」
何百年も生きているおじいちゃんなのに。というのは禁句だけれど。
それでもやっぱり嬉しいから、の方からキスをした。
望んでもみなかった。
夢にすら描けなかった。
「こんなクリスマスを過ごせるとは、な・・・」
小さな身体を抱き寄せ、数え切れないほど交わしたキスをする。
「毎年だよ・・・」
「ん・・・?」
「毎年、一緒だよ」
「・・・ああ」
体だけのことではなくて。
その気持ちが、一番のプレゼントなのだと。
「ずっと一緒だ、」
与え続けたい愛なのだと−。
・あとがき・
自分の体をラッピングして「私がプレゼントv」なんてのは、一昔か二昔か前にはありがちネタだったのですが。
最近はそんなの忘れ去られているだろう。今やれば結構、新しいかも知れない! と思いつき、ちょうど時期もクリスマスだしとストーリィをまとめてみました。
キャラは黄金聖闘士にしようと思って、シオンの他にデスマスクとアイオリアとミロが浮かんでいたのですが、一人にされたからといって他の友達のところに行きウサ晴らしなんてされるとちゃんの計画も台無しなので、そんなことをしなさそうなシオン様に決定しました。
何だかんだ言ってもシオンは大人(いやむしろじーちゃん)なので、諦めておとなしく一人でいてくれるだろうと思って。
書いてみたら思った以上に深く穏やかな心でいてくれましたね(笑)。
反応も大人だし、シオンにぴったりのドリームだったな、とまで思えます。
久しぶりのシオンドリームでしたね、そういえば。ちゃんは可愛いなぁ〜♪
私は決して無邪気な嘘をついたり悪戯をしたりふざけたり出来るタイプではないので、ちょっといいなぁと思いながら書きました。
どうやって自分の体中にリボンを巻きつけたのか謎だけど。器用なのね。
下準備はアテナのところでしていたのでしょう、きっと。「大胆ねっちゃん」とか言いながらアテナも楽しそうに手伝ってくれていたに違いない。実は忘れかけられていたコスプレシリーズだったりして。
女の子のサンタさん衣装って、この時期になるとよく売っているけど、可愛くて大好きなんだ。
H15.12.22
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