音
こんな寒い中、構わず凍った地の上で。彼は、竪琴を奏で続けている。
アスガルドの鋭い風にも紛れることなく。かえってその寒さが真っ直ぐに音を響かせるのだと知った。
凛と透き通ってどこまでも美しい−。
だけど何故。
何故、こんなにも哀しげな音色を?
「・・・誰?」
一曲終えた合間に、誰何の声が発せられる。物憂げではあったけれど拒む調子ではないことにほっとして、はそっと姿を見せた。
「ごめんなさい。あんまり綺麗な音だったから」
そして・・・哀しそうだったから。
少し近付くと、その瞳も寂しい色に染まっていることに気が付く。綺麗で哀しい。それは音だけではなく、演じ手である彼自身も。
「私はミーメ。君の名前を聞いてもいい?」
他人と関わるのは不得手だけれど、このときに限って、ミーメはいやな気はしていなかった。隣に腰掛けるよう促すなんて、我ながら珍しいことだ。
「私、っていいます。秋からこのアスガルドに留学する予定で、今日は旅行と下見を兼ねて来たんです」
「わざわざこんな北欧の果てに留学なんて、変わっているね」
手慰みに、弦をはじく。無造作に見える動作でも、その音色は最上の質で鳴り渡るのだった。相当上手な人だと、は感心する。
「ここは神の国ですもの。きっとたくさんのことを学べると思うわ」
それはインスピレーションにも似ていた。はアスガルドに惹かれ、実際に訪れたことでそれは確かなものとなった。
「ミーメみたいに、素晴らしい演奏家もいるもの」
お世辞ではない。の国でも、これほどの腕の持ち主となるとそうは探せないだろう。
「君も、音楽を?」
「声楽の方を主に。・・・ねぇ失礼とは思うけど、聞いていい? 貴方の奏でる音は、どうしてそんなに哀しそうなの?」
本当に不躾だと分かってはいた。でも、口にしても大丈夫なような気もしていた。
吹き付ける風は冷たいけれど、二人の間の空気は柔らかだったから。
ミーメはすぐに答えず、小さな竪琴の弦に指を滑らせた。音がこぼれ、旋律となり、辺りを震わし染みてゆく。
「これは、レクイエムなんだ」
繊細な指使いに見とれ、音に聞きほれほとんど忘れかけていたときに、ミーメはそっと呟いた。
「レクイエム・・・」
「そう」
両親へ、義父へ。
鎮魂のため、また自らを懺悔するために・・・奏で続ける。
には何も言えなかった。これ以上は、聞いてはいけなかった。
ならばとせめて歌う。得意のメゾソプラノを、曲に乗せて。
出来ることといえば、このくらいしかないからと。
音は深くなり、今までになく気持ちがこもる。ハープと歌声は妙(たえ)に響き合い、寄り添うようなハーモニーへと導かれてゆく。
知らずのうち、ミーメの頬を涙が伝っていた。
今まで流せなかった分、後から後からこぼれ落ちてゆく。
(ミーメ・・・)
胸を貸す代わりに、歌い続けていよう。
きっと、浄化されますようにと。
哀しみだけの音が、もうこの地に流れることのないようにと。
数か月後−。
あの場所に、今は明るい曲と歌が毎日のように流れている。
「新しい曲ね。素敵」
軽やかで、派手ではなく美しい。
「のために、作った曲だよ」
「ホ、ホント?」
頬を赤らめるに、微笑みかける。そして演奏を再開した。
も、歌いだす。
竪琴の紡ぐメロディにきれいなメゾソプラノが心地よく絡み合う、この絶妙の一体感が、二人とも好きだった。
もういない人たちを、忘れるわけでは決してないけれど。
今、ここで生きている自分のために、そして、隣にいる大切な人のために、奏でてゆくことに決めた。
音は音楽になって、アスガルドの澄み渡る空に広がってゆく。
・あとがき・
なんか重苦しい・・・。重苦しい気持ちで書きました。
北欧キャラってみんな暗い過去とか背負っているし、あの気候とか背景の色使い、使われている音楽からして重苦しいせいもあるかも知れないけど。
特にミーメって顔色悪いし、女の子みたいに繊細な外見だし、余計にそんな感じなのかな。
大声で笑ってはしゃぐミーメというのはあまり想像できないもんね。ミーメってキャラは好きですよ。神闘士ではかづなの中で二番目。あの全身白タイツにはさすがにちょっと引いたけど。
当時いつも一緒に遊んでいたイトコはミーメが大のお気に入りで(一番ソレント、二番ミーメだった)、そのおかげでかつて私が書いていた物語ではミーメの出番はとても多かったんです。でもやっぱり、どこかアンニュイというかしっとりしてたなぁ。恋人設定はなかった。妹キャラがいて、妹を溺愛していたから(笑)。「音」ってタイトルでは、音楽を武器にするキャラのドリームを書こうと決めていました。ソレントかミーメだな、って。
ファラオでもオルフェでも鳳でもいいんだけどねー。一緒に音楽を奏でる(今回のちゃんは歌だけど)というのは、とってもいいなーって思うんですよ。
私自身は楽器演奏も歌も出来ないんですけどね。
恋人同士で二重奏なんてちょっとステキじゃないですか。
そういえばミュージシャンの恋人とか奥さんって、やっぱり曲作ってもらって演奏してもらったり歌ってもらったりするのかな。独り占めだよなぁ、羨ましい。
素人だとちょっと微妙かも・・・。昔、そういう番組のコーナーがあったのを思い出しました。彼が自作の曲を彼女に弾き語りで聞かせるの。下手だと笑えるよね何か。そういえば風小次の竜魔ドリーム「唄」でも、ヒロインが唄ってあげていた。ちゃんが歌ってあげたのも、同じような感じかな。
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