ノストラダムス
「ノストラダムスの大予言?」
「何だ、それは」
「ええーっ、みんな、知らないの?」
日本から来たは、仲良くなった黄金聖闘士たちと雑談の折り、最近の心配事を口にした。
1999年は来年に迫っている。そんなの迷信だという思いと、もしも予言が的中したら・・・の不安が混じり合い、実はかなりソワソワしていたのである。
ところが、にーさんたちはみんなキョトンとしている。どうやら本当に知らないようで、が説明してあげると、今度は笑い飛ばされた。
「来年の夏に、世界が滅亡するって?」
「そんなバカな」
「聞いたことないな。日本の作り話じゃないのか」
「だって・・・」
幼い頃から身近にあった話だ。こんなに簡単に否定されるなんて、ある意味ショックだった。
「まあ待て、みんな。の話を、もっとちゃんと聞いてやろう」
そこで、優しい声をかけてくれた人がいた。牡牛座のアルデバランである。
「それがあるかないかが問題なんじゃなくて、が不安なのが問題だろう」
・・・これが、彼に惹かれた瞬間だった。
「二人だったら、たとえ死んでも怖くないよ・・・」
かすれた声で囁くを、ただ抱きしめる。『そんなバカなことを言うな』とも言えず。
本当は、アルデバランも同じ気持ちだった。
こんなに幸せだから。幸せの絶頂で二人命を落とす・・・これは究極の永遠と言えるかも知れない。
聖闘士としては失格だろうけど。
「ねぇ、来年の7月も、こうしていてね」
地球がなくなるなら、その瞬間まで抱き合っていたかった。
アルデバランは頷いた。そうする他なかった。
地上に平和をもたらすアテナの聖闘士でありながら、ただそばにいてあげることしか出来ないなんて。そしてその時をある憧れでもって待ち焦がれてしまうなんて。
黄金聖闘士とは言っても、何とも無力なものだ。
「・・・もしも、無事に1999年を越えたら、結婚しようか」
全く、現実味はなかったけれど、そう言ってみた。
どこか上の空で、も頷いた。
そして現在・・・年。
「ママ〜!」
庭で洗濯物を干していたら、小さな女の子が走り出てきた。
「、転ばないようにね」
手を休めて、抱き上げる。
「いい天気だなぁ。な、」
後から歩いてきた夫は、下の男の子を肩車していた。
はアルデバランと結婚して、二人の子供にも恵まれ、幸せな日々を過ごしている。
「ママ、パパがドライブにいこうって!」
「いいわね。じゃあ早く終わらせるからね」
太陽の下で輝くような笑顔と、幾重にも重なる笑い声。二人は、あのときとは全く違う、明るい幸福感に包まれていた。
一緒に生きて、希望を未来に繋ぐことが、本当の幸せだと・・・今ならそう言える。
ノストラダムスの予言なんて全然当たらなかったけれど、こんな色々なことを教えてくれたし、何より恋を実らせてくれた。
顔もまともに浮かばないノストラダムスのおじさんが、にとっては恋のキューピッドだった。
真っ白なシャツを干しながら、青い青い空に向かって微笑む。眩しさに目を細めながら。
「ありがとう、ノストラダムスさん」
・あとがき・
この「私的夢100題。」って、いつ作られたお題なんでしょうねぇ。「ノストラダムス」というお題があるとは。
1999年なんてあっけなく過ぎ去ってしまって、今思えば何だったんだろうノストラダムス。っていう感じですが、実はここに書いたのはほとんど私自身が感じたことだったりします。
子供の頃、アニメ「北斗の拳」オープニングを見て私は1990年台が来るのが怖くてしょうがなかった。
「世紀末」という言葉があちこちで聞かれ、色んなところでノストラダムスの大予言が取り上げられ、怖がりな私は恐怖を感じていました。
「本当に地球が滅亡してしまったらどうしよう。でも、みんな一緒に死ぬんだったらしょうがないか・・・」と思っていたことを覚えています。
いざ迎えた1999年には私はもう現在の夫と婚約をしていました。「無事に7月を越えたら、結婚式だね」と話し合っていたものです。
そして、本当に幸せな今死ねるなら、それでもいいか、と思ったのも本当です。それって暗い幸福感とでもいいましょうか、決してキライではないし、否定もできない感覚なんだけど。
結局、何事もなく。こうして生きていて。それなり辛いこともあったりするけど、暮らしていると、あのときとは正反対の未来のある明るい幸福感の中にいるんだなって思います。
どっちがいいとか悪いとかいうのではなく。
まぁなんかだんだんおっそろしい世の中になってきているんだけど。ホントはあのとき滅亡していた方が良かったんじゃないの? とは、思いたく・・・ないですねぇ。ノストラダムスの予言なんて日本人だけが騒いでいるもので、外国ではほとんど知られていない、というのを何かで見たような気がするので、黄金聖闘士のみんなに笑い飛ばされるという話にしました。
人から相談を持ちかけられたとき、私は「その出来事自体が問題なんじゃなくて、この人が困っているのが問題」という考えで相手の話を聞きたいと思っています。
「そんなのただの迷信」って笑い飛ばすのではなく、「こんなに不安がって、大変だね」と話を聞いてあげたいなぁと。
同じように、「仕事が大変で疲れた」と言われたら、「そんなの大したことないじゃない! みんな大変なんだから。君も頑張れよ」とは言わず、大変だと言っている相手の心に同調してあげたい。
アルデバランって、そういうことを自然にやってそう。そういうところが、彼の人間的な魅力なんですね。そして彼はお父さんにしたい人ナンバーワンですねっ! 日曜日のお父さん。最高。
H15.10.7
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