見かけたあのこ
ディスプレイもBGMも、緑と赤と金色に浮かれたクリスマスムード一色の街を、黄金聖闘士の二人は歩いていた。
「サンタの衣装、ビンゴセット、スノースプレーに三角帽子・・・ったくよぉ、ガキじゃねーんだから」
買い物メモを読み上げるのも途中で大儀になって、デスマスクは口をとがらす。
「仕方ないだろう、アテナ直々の命なのだから」
スタスタ歩いてゆくアフロディーテに、慌てて早足になって追いついた。
「だから、何で俺たちにこんなくだらん買い物なんて命ぜられるんだよ。・・・やっぱり悪と知りつつサガについてたことの恨みかねえ。ハーデスとの聖戦のときはいい演技したと思ってんだけどな〜」
デスマスクの止まらない口に、アフロディーテは苦笑する
「でもクリスマスパーティなんて、年頃の女の子らしいじゃないか」
アテナである沙織がある日、唐突に提案したのだった。『今年はみんなで、クリスマスパーティを開きましょう! 大きなツリーを飾って、ご馳走たくさん用意して』と、楽しそうに胸の前で両手を組んで。
「しかも『イヴは皆さん、それぞれ予定があることでしょうから、23日にやりましょう』なーんて、気を利かせてるつもりなんだろうが大きなお世話だ」
似てない沙織の口真似をして、特に約束なんてないデスマスクはますます不機嫌そうになる。
「だいたい、こうやってお前と歩いていると、絶対カップルだと思われてるよな。これじゃ女も寄ってこねーよ」
女性のように見えるアフロディーテを軽く揶揄するが、相手も負けてはいない。
「ふん、いい女と歩いているように見えるんなら、お前はまだ得してるよ。私の方こそ迷惑しているんだ、ガラの悪い男が隣にいるせいで、私に声をかけたいと思っている女性が近付いて来れないんだからな」
仲の良い二人のこと、こんなやり取りも日常茶飯事である。
「どちらにしろ、寂しいクリスマスイヴだ」
白いため息を吐く友人の肩を、デスマスクは景気良くぽんと叩いた。
「こーなったら24日は二人で夜の街に繰り出そうぜー。女なんて現地調達だ!」
「現地調達って・・・。やっぱり愛がないと」
「愛はなくても女は抱ける!」
「そんなこと言っているから、デスマスクは毎年シングルクリスマスなんだよ」
「・・・それを言われると返す言葉もない」
今度は二人でため息をつくのだった。
そのとき、視界を横切った人影に、デスマスクのレーダーは思い切り反応した。勢い良く顔を上げてその姿を追う。
「うぉ〜あのこ可愛い! のりピーに似てないか?」
肩に置かれたままの手でユサユサ揺すぶられて、アフロディーテは目を回しかけた。デスマスクが指差す方向を見ると、ミニスカートにロングブーツの女の子が、楽しげにショーウィンドウを覗き込んでいるのだった。
「なっ?」
「・・・確かに可愛い娘だな。のりピーに似ているかどうかはともかく」
「一人かな」
友達同士や恋人たちばかりで溢れているファッションタウンに、可愛い女の子一人の姿はいささか奇異に映る。
「女の子が一人でいるのに、声をかけないってのは失礼だよな」
「やめておけ。おおかた誰かと待ち合わせでもしているんだろう」
もう突き進もうとしているデスマスクの襟首を掴み、目的の店まで引きずってゆくアフロディーテだった。
「あ、あのこ」
コーヒーショップの窓から見えた姿に、デスマスクは短く声を上げる。
一通り買い物を終えて、二人で一休みしているときだった。
さっき見かけたあのこが、通りの向こう側をぶらぶらと歩いている。相変わらずウィンドウショッピングを楽しみながら。
「やっぱり一人みたいだな」
「俺に声かけてもらうの待ってるんだ」
かなり勝手なことを言い放ち、デスマスクは早速立ち上がった。
止めるなんて労力の無駄だから、アフロディーテは紅茶を傾けながら、眺めていることにした。
(きれいな街。楽しいものがいっぱい! 来て良かった〜)
は上機嫌で、次の店を覗いた。と、自分の背後に、知らない男が映っているのでビックリする。
ガラス越しに笑いかけられて、思わずバッと振り向いた。
「ここ初めて? 案内してあげようか」
なんだ、ナンパか。力が抜けた。は笑って軽く手を振る。
「結構よ。一人で探検するのが楽しいから」
行動範囲の広いのこと、男の人に声をかけられるのには慣れている。なかなかカッコいい人だけれど、見知らぬ人についていく気はさらさらなかった。
「腹減ってない? いい店色々知ってんだけど」
尚もまとわりついてくるナンパ師を改めて見ると、銀の短髪、背は高く、何かスポーツでもやっているのか、逞しい体つきをしている。
(結構、好みかも・・・でもナンパしてくる男にロクな人はいないわ)
真面目な人と付き合いたいと常日頃思っているのだ。もちろん、その場限りの遊びなんて虚しいことはしたくない。
「ごめんなさい、私全然そういう気ないから」
きっぱりと断ると、軽く頭を下げて踵を返した。
「玉砕だな」
笑って迎えるアフロディーテを軽くにらみつけ、ドサッと腰をおろす。もう冷め切ってしまっているコーヒーを一口含んだ。
「でも、媚びない感じがすごくいい。凛としてて、ああいうの好きだな俺。それにのりピーより可愛いかも・・・。本気で惚れそう♪」
やたら浮かれているこの男、諦めるつもりはないらしい。
「ふーん。デスマスクがそこまで女の子を褒めるとは珍しい」
カップをすっかり空にして、アフロディーテは立ち上がる。
「それなら、今度は私が行ってくるよ」
男でも見とれてしまうようなあでやかさで微笑んで、出ていってしまった。
可愛いお店を見つけたので入ろうかと思っていたら、目の前がいきなり赤一色になった。寄り目になりつつ焦点を合わせ、ようやくそれが真っ赤なバラの花束だと分かる。
「君に」
反射的に受け取ったら、それは美しい人が目の前に現れた。
くせのある長い髪、目元にはホクロ。
モデルか何かをしている女性かと思ったが、声と体格などから、男性だと分かった。
「あの、これ」
「君のような女性にとてもよく似合うよ」
と言われても、道の真ん中で知らない人にいきなり大きな花束を渡されて戸惑わずにはいられない。
「でも・・・」
ふわっ・・・花の芳香が立ち上がる。思わずそれを吸い込んで、少し、くらっとした。
「あ・・・」
相手の顔だけがハッキリと見える。あとはどうにもぼやけていた。
「さあ、一緒に行こうか」
その声は魔力じみていて。
機械じかけのように頷いて、言われるままに・・・。
「コラー、ちょっと待て!」
大きな声に、ハッとする。とたん、周りの風景や音が騒々しく蘇った。夢から覚めたような気分だ。
「あ、さっきの」
銀髪のナンパ男。
デスマスクはからバラの花束を取り上げ、アフロディーテに詰め寄った。
「お前こんなあやしいバラ使うなんて卑怯だろ」
「何のことだ? それは普通のバラだ。・・・といってもデモンローズと一緒に咲いていたものだから、多少は魔力が移っているかも知れないけど」
フフン、と悪びれない態度に、背筋が寒くなるのをデスマスクは感じていた。
「コイツこそ最強の悪役じゃねえか」
「何を言う、最凶の悪役面が」
「ンだとぉー」
二人のやり取りに、最初はあっけに取られていたも、ついクスリと笑ってしまう。
なんだか楽しいコンビだ。
「・・・あ、笑顔もカワイイ」
デスマスクは相好を崩す。
「お茶でもどう?」
アフロディーテが、今度は正真正銘普通のバラを一輪、差し出した。
「俺、デスマスクっていうんだ」
「私はアフロディーテ」
どっちも変な名前だ。
と思ったがもちろん口には出さず、は自分も名を名乗り、今日はひとりでここまで来たのだと話した。
「ひとりで知らない場所を歩き回るのが好きなの。気ままで楽ちんで」
女の子はすぐ集団行動を取りたがるものだと思い込んでいた二人にとって、そう言って楽しそうに笑うは新鮮な存在だった。
「一人も楽しいだろうけど、今日は俺たちと遊びに行こうぜ!」
もっと知りたい、一緒にいたい。ただ街で見かけただけの子に、こんなふうな気持ちを抱いてしまうなんて。
「・・・うん」
ナンパはイヤだったハズなのに。
まさかバラの後遺症でもないだろうに、はいつの間にか頷いていた。
お気に入りのレストランに案内して、山ほど料理を注文する。
どれもこれもに食べさせたいメニューばかりだ。
「今度、私たちの職場に連れていくよ。きっとはびっくりするだろうな」
「変人がいっぱいでな」
顔を見合わせて笑ってる。この人たちが言う変人って、どんなだろ。はちょっと興味が引かれた。
「うん、是非!」
本当に自然に『次』の話をしている自分が不思議だったけど、二人といるのは気楽で楽しかった。
ひとりで行動するのと同じくらい、気を遣わずにいられた・・・家族や身近な友達と同じように。
(今日だけで終わらなきゃいいな)
素直にそう思ったのは、当然、だけではなくて。
デスマスクもアフロディーテも、一緒に過ごすごとに、に惹かれていっていた。
ただし、が友達として思っているのとは逆に、思い切り恋人候補として。
「いいの? ホントにご馳走になっちゃって」
「いいんだよ。今日は出会えた記念に」
お店を出ると、もう外は暗くなっていた。
「うまくいけば、脱シングルクリスマス・・・」
と二人きりのイヴを想像してニヤニヤしているデスマスクを、ひじで強めにつつく。
「クリスマスイヴにの隣にいるのは、私だ」
「なにーっ、俺が見かけて好きになったのに!」
「恋愛は早い者勝ちじゃない」
案内役のハズなのに足を止めて何か言い合っている男たちを振り返り、は大きく手まねきをした。
「何してるのー早く行こう!」
その仕草の可愛らしさに見とれ、即座に休戦となる。
「ゴメンゴメン」
「待てって」
もつれ合うように駆けていった。
「よっしゃ、夜の遊びに突入だ!」
「デスマスクが言うとなんかあやしいよー」
「さあ行こうか」
肩にデスマスクの、腰にアフロディーテの、それぞれ腕を回されて。ほとんど運ばれるようには歩いていくのだが、いやな気分はなかった。
楽しくてしょうがなかったから。
見上げる空に、一番星が輝いている。
「・・・ところで、何か忘れてないか?」
「ああ? と遊びに行く以上に大事なことなんてあるかよ」
「そうだな」
の頭越しに無責任な言葉を交わし、デスマスクとアフロディーテは足取りも軽やかにきらびやかな夜の街へと消えてゆくのだった。
その頃、聖域では・・・。
「遅いッ! あの二人はどこまで買い物に行っているんだ。アテナの命を何だと思っているのか・・・だからこの俺が行くと言ったのに!」
シュラが頭から湯気を昇らせ、イライラと床につま先を打ち付けていた。
「煩悩の多い彼らのことだ、街の誘惑に負け、遊びに行ってしまったのに違いない」
「のりピー似の可愛い娘でも見つけたんじゃないかのう」
シャカと童虎は見事に真実を言い当てている。
「フッ、奴らにはそれなりの仕置きを準備しておくとしよう」
「あらあら、お仕置きだなんてそんな怖いこと、しなくてもいいんですよシオン」
にっこり微笑みながら、沙織はキャラクターもののノートを開いた。
「それは何ですかアテナ?」
「クリスマスパーティのときに皆さんに冬のボーナスを弾もうと思っているんですけど、その査定表です♪」
シオンが覗き込むと、「蟹」と「魚」の欄に大きくマイナスの棒が書き込まれているところだった。
やはり一番恐るべきはアテナ。
絶対逆らわないようにしよう、と改めて心に誓うシオンなのだった。
を交えてクラブでの遊びに興じている二人に、楽しいクリスマスは果たして訪れるのか。
当面、どうやって携帯の番号を聞き出そうかということばかり考えているデスマスクとアフロディーテだったが・・・。
・あとがき・
誰もリクエストしてないけどデスマスクとアフロディーテというダブルキャラ。
ナンパネタというのは一度は書きたかった。当初は別のキャラでナンパネタを考えていたんだけど。でも形は全然違うから、またそのキャラで書くかも。
実はあまり二人はナンパに慣れてないんですね。声をかけるよりかけられる方が主だから(笑)。でも、ちゃんを見て、どうしても声かけたくなっちゃった。ちゃんはひとりの楽しさというのを知っている女の子。
割合私も一人で行動するの好きです。喫茶店でもレストランでも食べたいものあったら一人でも入るし、買い物なんか一人の方が気楽だし、カラオケも一人で行く方が好きだし。
もちろん家族や仲の良い友達と一緒にいるのは、一人とはまた違ってとても楽しいものだけど、例えばあまり親しくない人と行動するくらいなら、一人がいい。
はたから見ると「あの人寂しい〜」ってことになってるんだろうけど、いいの。
そんな感じでちゃんを書いてみました。
でもちゃんは行動派で明るい女の子です。ナンパなんか慣れてて、さらりとかわしちゃう。
デスマスクも言っていたけど、そういう媚びない感じがいいなって私も思います。デスマスクとアフロディーテって仲良い友達だと思います。水の星座同士で、相性もいいし。
ちなみにかづなの実兄と娘も蟹座、実母は魚座だったりします。関係ないですね(笑)。アフロディーテのドリームって初ですね。単独でももちろん書いたことないし。
私はアフロディーテって普通に男だと思ってます。だから原作のアフロディーテの方がいいな。
ドリームとしてそう書きにくいキャラでもない感じなので、今度は是非アフロディーテ単独ドリームに挑戦してみたいですね。思い切りロマンティックに攻めたい感じです。だってロマンチストって魚座の代名詞だもの。
デスマスクは私にとっては意外に書きにくい。特に苦手というでもないけれど、他に書きやすいキャラがいっぱいいるから、ついそっちを書いてしまうというか、そんな感じ。
それでデスマスクドリームってまだまだ少ないのね。人気のあるキャラだし、徐々に増やしたいですね。この後、ちゃんはしばらく二人と友達として付き合っていって、聖域にも遊びに行ったりして。
三角関係がしばらく続く、という展開を希望。
クリスマスまでにどうにかは出来ないだろうなぁ。知り合ったばかりだし。
H15.12.11
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