鎖
十二宮のクリスマスパーティ、きらびやかなツリーの下、おいしいものを食べながら、はみんなとのおしゃべりに興じていた。
「へー、ってまだキスもしたことないのか」
ほろ酔い加減の黄金聖闘士たちに混じれば、何故かこんな話題になってしまって。
白状させられたは、赤くなりつつ頷いた。
「幼稚園の頃とか除けばね」
「今時、感心な娘じゃのぉ」
何がどう感心なのか、童虎はしきりと頷いている。
「してみたいと思う?」
「やっぱり興味あるよな? そういう年頃だし」
「試してみるかー?」
ニヤニヤしながら心なし近付かれて、慌てて両手を振った。
「いやいや、やっぱり好きな人と」
周りは酔っ払いばかりなんだから、隙を見せたら何をされるものか。
でも、『好きな人』なんて口に出したら自分でドキドキしてしまって、は思わず、いつも気にしている人の方を見てしまう。
密かにほのかに恋している相手・・・。
そうしたら、彼とバッチリ目が合った。
飲み物を手にしていたミロは、に、意味深げな笑みを見せた。
「」
ちょっと席を外して、また会場に戻ろうとしたところを呼び止められた。
心が激しく波立ったのは、あの人の声だったから。
見回すと、何故か柱の陰に立って、ミロは手招きをしている。いつもの悪戯みたいに。
「どうしたの、ミロ」
平静を装い、スキップ混じりの足取りで近付いた。
と、急に腕を伸ばしたミロにつかまり、柱の裏側に引き込まれてしまう。びっくりきょとんとした目を上げると、彼の顔がすぐそばにあった。
両腕を柱につき、を囲うようにして、ミロは腰を少し屈め更に顔を近付ける。
「・・・してみる?」
「えっ?」
縫い付けられたように、動けない。
「俺としてみる? キス」
こんな薄暗い場所で見るミロの瞳は濃く深く、ゆらり妖しい光を秘めている。そしてそれが、たちまちの心を縛り付けた。
目に見えない鎖のように。
のぽうっとした眼に、ミロの魅惑的なほど甘い笑みが映る。
「目を閉じて」
少しかすれた囁きに、ゾクリとさせられ。抗えないから、まぶたを閉じた。
「・・・いい子。」
吐息に紛れるような微かな笑い声を聞いた。
頬に手のひらで触れられ、そして唇に。
(あ・・・)
燃えるように熱い−。
ぴくりとも動けないまま、戸惑いながら、はファーストキスをミロと交わした。
「・・・どう?」
「お酒の味・・・」
自分では一滴も飲んでいないのに、酔ったような心地でぽわんとなる。は柱にもたれることで、どうにか自分を支えていた。
息が苦しい。鼓動が鎮まらない。
本当に軽くて、短いキスだったはずなのに。
「酔ってふざけてるとか、軽い気持ちとかじゃないから」
言葉通りの、真剣な目を向けて。
ミロは、を片手でごく軽く抱き寄せた。
「好きなんだ、。俺と付き合ってくれないか」
・・・信じられない。
ひとりずっと夢見ていた言葉を、じかにもらえるなんて!
それこそこれが夢だったら、どうしよう。
「こんなときにこんなところで言うようなことじゃないって、分かってはいるんだけど・・・。でも、ずっと思っていたことだから」
相変わらず固まったままのの態度をどう解したか、ミロの口調が少し言い訳じみてきた。
それに気付いて、は大きく首を振る。
「う、うん、嬉しい」
身じろぎは出来ても、鎖は解けない。心はもう繋ぎ止められて、彼しか見えない。
この瞳だけで。ただのキスひとつで。
「明日、どこかに行こうか。二人きりで」
遊びに出掛けるときは、いつもみんなで、だった。だから、わざと二人きりで、と付け加えた。
ストレートなデートのお誘いに、は嬉しそうに頷く。
「最高のクリスマスイヴになりそう!」
もちろん昼間の約束だということは分かっている。単に明日が24日だからそう言っただけだけれど、イヴという単語には自分で反応してしまった。
まるで夜に会うことを期待しているみたいに聞こえたかもしれない、と。
「あ、別に夜じゃないけど、何ていうかあの」
「・・・いいよ。夜も一緒にいようか?」
誘うように試すように冗談のように。何気もなく言い放たれて、言葉をなくす。
どちらが誘ったか。
二人はもう一度、唇を合わせた。
・あとがき・
「鎖」というお題を見たとき、反射的に瞬が浮かんでいました。まあ当然といえば当然ですね。内容は全然ひらめかないうちに瞬ドリームにしようとぼんやり思っていました。
でも結局、ミロドリームに。
私の書くミロとしてはベーシックな感じで。鎖で縛り付けるみたいな愛し方、というイメージがあるんですよね。窮屈なくらい嫉妬深くて、でもその分誠実に愛してくれる。「オール・オア・ナッシング」でも書きましたけど。
「してみる? キス」っていうの、一度書きたかったんです。なんかドキドキですよね。まるで冗談みたいに誘われて、盛り上がった雰囲気のままキスしちゃうの。
ちょうど時期なので、クリスマスパーティの夜にしてみました。
うん、まさにドリームって感じですね。
ミロは自信持ってる人だと思うけど、やっぱりこんなふうに誘って告白するのってすごい勇気だったことでしょう。
でも気持ちが通じたと分かった後は、すごく大胆なんだよね(笑)。
H15.12.22
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