君と僕と ?
里の大木に登り、それぞれ枝に腰掛け、二人はくノ一の帰りを待ちわびていた。
「そろそろ戻るころだな。うまくいったかな」
項羽はコウモリのようにぶら下がって、弟に話し掛ける。
「大丈夫、なら完璧に仕事をこなしてくるさ」
同じ顔を突き合わせ、小龍も笑った。
君と僕と−。
ずっとずっと昔から、いつも一緒だった兄弟。
そこにという存在が入り込んできたのは、いつのことだったか。記憶にすらない。
君と僕と ?
それは、離れられない、もう一人。
風魔の忍としての任務を終え、里に戻る。失敗はすなわち死という世界で、求められている結果は完遂以外にない。の心には安堵も誇らしい気持ちもなく、強いて言えば、少し疲れていた。
肌に、風が触れた。僅かスピードを緩め、耳を澄ます。
いつもの場所で、いつもの二人が待ってくれている。それを感じ取ると、初めて頬に笑みが浮かんだ。
「ただいま」
「「おかえり、」」
迎えてくれる声も笑顔も二倍だから、も嬉しさでいっぱいになる。
「なあ、何か俺にくれるモノ、ない?」
二人は木を下り、も交えて地面に腰を下ろしている。今回の仕事のことなど一通り聞いてから、項羽はそう言って両手を差し出してきた。
「、俺にも」
小龍もマネをするから、手は四つになった。
「お土産なんてないよ」
わざとそっけなくあしらってやる。
「今日は2月14日じゃないか!」
「知ってるだろ、バレンタインデーだぞ!」
引っ込めるどころか、ムキになる兄弟が可笑しい。
「そんな横文字は似合わないわよ」
山奥に住む忍の一族が、バレンタインデーだなんて。
「ならチョコレートくれると思っていたのに」
「期待してたのに」
もちろん、『好きな男に』チョコレートをあげる日だと知っていて待っていたのだった。
はくすぐったくも楽しい気持ちで、でも表面には出さず、代わりに含み笑いをしてみせる。地面に手をつき、上体を少し前に倒したポーズで。
「・・・欲しいのは、チョコレートなんかじゃないクセに」
ミステリアスな瞳と艶めいた声が、今日だけの特別な魔法になる。
動きの止まった兄弟たち。およそ忍者らしくないと思うと、また笑えてくる。はそのまま小龍に近付いた。魅入られ、なお金縛り状態の弟の唇に、唇を軽く触れる。
「−−−!」
ハッと我を取り戻したのは、項羽の方だ。しかし声を聞く前に、はその口をもふさいでしまった。もちろん、自らの唇で。
「・・・総帥のところに行くわ」
項羽と小龍に一つずつチョコレートの包みを渡すと、ザッと姿を消してしまう。
置き忘れられたような兄弟は、口もとを押さえた同じポーズで、顔を見合わせる。
「・・・」
「・・・」
口付けの感触を留めたまま、照れるように笑い合った。
君と僕と ?
かけがえのない存在−。
の残り香を風の中に探すと、チョコレートよりも甘い甘い匂いがした。
・あとがき・
風小次は久しぶりです。
昔、風小次でオリキャラ交じりの小説を書いていたとき、一番多かったのは項羽と小龍の話。なんだか懐かしい気持ち。このお題は項羽と小龍で使おうと、決めていました。単に「君と僕と」ではなく、その後空白があって「?」とついているのは何か意味深いような。私はそのまんま、「君と僕と」にしたけど。
項羽と小龍の間にはやはり特別な絆があると思うので、まず「君と僕」。そして同じくらい大切な「」ということで。
時期だったのでバレンタインデーにからめて。
当初、学園モノパラレルにしようかと思ったのですが、風魔の里にバレンタインのチョコレートというミスマッチもそれなりに面白そうだったので、忍のままにしておきました。私が勝手に設定した風小次のくノ一は、忍として働くことをしなかったけど、今回ちゃんは男と同じように仕事をしているくノ一ね。もちろん服装はセーラー服推奨。くノ一って小さいころから憧れていたなぁ。カッコいい。
チョコレートは仕事帰りにちょっと買ってみたんでしょうね。項羽と小龍は、原作では「兄弟」としか表現されてません。そのため、二才くらい差がある兄弟、というふうに描かれていた同人誌も見たことがあります。
が、私は自然に双子だと思ってます。だって見間違えるくらいそっくりなら、一卵性の双子でしょ! ということで。
ただ見方はそれぞれだと思うので、ここでは「双子」という言葉は使いませんでした。昔、書いていたときは、双子の違いをハッキリさせるために、小龍はもっと大人びていて自分をおさえるところがあったんだけど、今回は二人とも同じやんちゃさで書いた。忍らしくないけど、特別なんですよね、お互いとちゃんの前では。
H16.2.13
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