計画実行
は、アテナの侍女という滅多にはない仕事に就いている。
特別有能だとか、気が利くというでもない。アテナこと沙織に個人的に気に入られているのが、この要職にある一番の理由だった。
「、おるかの」
仕事場であるアテナ神殿へ、ひょこっと顔を出した男がひとり。
「あっ童虎、おはよう!」
は笑顔で振り返る。黄金聖闘士を呼び捨てにするなんて、彼女以外なら許されないことだ。
天秤座の聖闘士、童虎は、邪気のかけらも見せない笑顔で接近していく。
「毎朝早くからご苦労じゃのお。疲れがたまっておらんか? よかったらわしがマッサージしてやるぞ」
まるっきりセクハラおやじである。見た目は若いのに。
「大丈夫! この通り元気よ!」
元気ポーズを作って見せる、童虎の親切だと信じて疑っていない。
「そーかそーか。いつでも天秤宮に来るがよいぞ。中国四千年の由緒正しいマッサージじゃからな」
「へえー、童虎ってそんなの出来るんだ。さすが260年以上生きているだけあるね〜」
「ふぉっほっほっ」
「だまされるな!」
そこにもう一人、短髪の逞しい聖闘士がやってきた。
「アイオロス、オハヨー」
の能天気な朝の挨拶に、つい相好を崩しかけながらも、射手座の聖闘士はさりげなくしかし強引に二人の間に割り込む。
「童虎には気をつけろ。マッサージとか言って、いかがわしいことを考えているに違いない。天秤宮なんかにノコノコついて行ってみろ、あんなコトやこんなコトされて、こんな純真無垢なが・・・あああチクショー羨ましいッツッ!!」
ピコポン! 妄想大魔王の頭に、ピコピコハンマーが振り下ろされた。
「おぬしの方がよっぽどいかがわしいぞ」
「・・・何をする」
アイオロスは後頭部を押さえて振り返る。
「だいたい朝からなんでこんなところにいるんだ。ご長寿さんらしく、教皇とゲートボールでもしたらいいのに」
「ご長寿さんだと思うならもっと敬意を払わんか。それに肉体はおぬしより若いぞ」
童虎は実年齢261才でありながら、18才の体だ。
対するアイオロスは、享年14才だったが、聖戦が終わって皆と共に生き返った際、何故か27才になっていた。
どっちもどっちで微妙だけれども、とにかく二人とも普通ではない。
その普通ではない黄金聖闘士二人が、一人の少女を巡って火花を散らしているというのは、聖域では有名な話である。
「、アイオロスこそ油断ならん。単細胞で爽やかなお兄さんのイメージで売っているのをいいことに、おぬしに近付いて悪さしようとしておる」
「聞き捨てならんな! 射手座のアイオロスといえば聖域の英雄だぞ。そっちこそ、じーさんのクセに、脱皮したからってこんないたいけなにまとわりつくのは見ていられん」
「なにぃ・・・」
「やるか!?」
一触即発、今にも千日戦争に突入しそうな勢いである。
には小宇宙を感じることは出来ないが、それでも不穏な空気は肌に刺さるようだ。
「ふ、二人とも、やめて・・・」
小さな声は届かない。
「今日こそその根性叩きなおしてくれるわ!」
「なんのそれはこっちのセリフだ!」
「おぬしら、何をやっておるかーーー!!」
ちゃぶ台がひっくり返された!
軽く投げ飛ばされた二人が顧みると、法衣に身を包んだ教皇が今にもブチ切れそうな血管を浮かべて立っているのだった。
「き、教皇・・・」
「シオン・・・」
余波から守るために抱き上げていたをそっと下ろし、教皇ことシオンは二人をにらみつける。
「ここをどこだと思っておる。控えぬか」
「は、申し訳ございません・・・」
アイオロスは反射的にひざまづいたが、親友(悪友?)の童虎は、
「わしが教皇の間を通り抜けたのも気付かないくらい高いびきで熟睡しとったクセに。ねぼすけの教皇なんぞに言われとうないな」
と聞こえるくらいの声でつぶやいて、またにらまれていた。
「まぁ皆さん、こんな朝早くからどうしたのです?」
「アテナ」
一番、ねぼすけの人がようやく起きてきた。自分の神殿でこれほどハデに騒がれていても今まで眠っていたとは恐るべき低血圧である。
今度こそ童虎もひざをつき、は主人のそばへ駆け寄った。
「おはようございます、アテナ」
「おはよう、。沙織と呼んでちょうだいっていつも言っているのに」
「さあさあ、おまえたちも自宮に戻れ」
シオンに促され、黄金聖闘士たちは仕方なくアテナ神殿を後にする。その際、童虎はわざとらしくアイオロスの足を踏み、お返しにとアイオロスは童虎の腹に一撃を食らわした。
「まったく、困ったものだ」
呆れ果てたため息をつくシオンの背後で、沙織とは女の子同士、きゃっきゃっとお喋りを始めていた。
「童虎とアイオロスって、どうしてあんなに仲が悪いのかなぁ」
執務を手伝ってくれているがこぼした言葉に、シオンとサガは思わず顔を見合わせてしまう。
「・・・どうしてって・・・」
「気付いていないのか? 」
サガに問われても、「何が?」とキョトンとしている。恐るべき鈍さだ、幸せというか何と言うか。
「ふ、所詮は小娘よの」
「それどういう意味ですか、教皇」
ほっぺを膨らまして不満そうなところがまた可愛い。シオンにとっては娘というか孫というかひ孫というか・・・まぁとにかく目の中に入れても痛くないほどの存在だ。だからこそ、やつらの欲望の餌食になどさせられない。絶対に!
「いいか、男というものはみんな狼だと心得よ。知っている者だからとて、ゆめゆめ安心してはならぬぞ。二人きりになるなど、もっての他じゃ。分かったか?」
「は、はい・・・」
何故いきなり真顔でこんな話をするのだろう。童虎とアイオロスのケンカのことについて話しただけなのに。だがシオンの真剣な眼差しに押され、はこくこくと頷いた。
「それにしても、仲良くしてくれたらいいのにな。平和が一番なのに」
優しいの言葉に、サガは思わず苦笑する。そもそもの原因が自分であるということに全く気付いていない。こんなことでは、彼女が望む平和などこの十二宮に訪れるハズはないのに、と。
「今日も童虎の奴に先を越されたか・・・やはり早朝トレーニングはもっと早い時間にした方がいいかな」
『トレーニング中止』ということを思いつかないのがアイオロスらしいところだ。
「これじゃいつまでたってもとラブラブになれない。早く両想いになって、ここでとこーしてあーして・・・うわぁードリームだぁあぁ!!」
妄想大魔王、人馬宮のベッド上でやや暴走気味である。ゴロンと横になり、枕をギューギュー抱きしめてまた起き上がった。髪がかなり乱れている。
「・・・やはり、そろそろ告白の時期だな。よし、そうと決めたら早速明日だ」
射手座の彼は「待つ」という言葉を知らなかった。思いついたら即行動、そんな自分の人生に後悔などあろうはずもなく(例え一度は死んだとしても)。
「邪魔者が入らないように、告白の計画を立てよう。よしそうしよう」
普段滅多に向かわない机に座り、あれこれ考え始める。
そんなふうにして、人馬宮の夜はふけてゆくのだった。
計画実行の朝はやってきた。
「ほう、アイオロスから昼食の誘いか、珍しいのお。と三人で・・・? はて、何を企んでおるのじゃろうか」
戸口に挟まれていたメモに目を走らせ、童虎は首をかしげる。
「ま、あやつのこと、大した考えもないじゃろう。茶菓子でも持ってご馳走になりに行くとするか」
「アイオロスから?」
「ええ、ランチに誘われたんです」
「いいじゃない。行ってらっしゃい」
ティーカップを持ったままにっこり微笑むアテナに、は心配事を口にする。
「あの、童虎も一緒だっていうんだけど・・・またケンカを始めちゃったらどうしよう」
「でも、もしかしてアイオロスは、童虎と仲直りしたくてそういう席を設けたのかも知れないじゃない」
「そっか、きっとそうね!」
そんなわけないだろう、とシオンかサガがいたら突っ込むところだろうが、生憎今朝のアテナ神殿には二人の乙女以外に誰もいなかった。
よって止める者もおらず、は何の疑問も抱かずに人馬宮に向かうこととなったのである。
時間になったので、童虎は手土産を持って人馬宮を訪ねた。
「アイオロス、おらんのか?」
顔を上げると、向こうでアイオロスが手招きをしている。一歩踏み出したとたん・・・
ガコッ!
床が抜けた。
「うわああああーーー!!」
悲鳴が、地下に吸い込まれてゆく。
風が吹く。
ざっ、と一吹きするたびに、花びらが華麗に舞い散る。
なんとも幻想的で美しい・・・。
「こんな場所があったなんて」
風と花の織り成す彩(あや)に見とれ、はため息をつく。その仕草が、表情が、隣に立つアイオロスの胸をどれほど高鳴らせるかなんて知らずに。
一番の邪魔者は、今ごろ人馬宮名物のアスレチックに落ちた頃だろう。『魔鈴の隠し撮りスナップをやる』と言ったら一も二もなく乗ってきた弟を立たせておいたのは、油断を誘うためだ。何と言ってもそっくり兄弟、遠目なら問題なく間違えてくれるだろう。
そして、自分はを処女宮わきの名所「沙羅双樹の園」に連れてきたというわけだ。
ラッキーなことに、今シャカは休暇中でインドに帰っている。このロマンチックな風景の中でなら、告白の成功率も50%はアップ確実だ。アイオロスは心の中でこの先のことを色々シュミレーションしては一人で勝手に興奮していた。
「・・・」
たまらなくなり、手を伸ばす。
「あっ」
はまったく不意に声を上げ、一歩退った。アイオロスは勢い余って地面に突っ込んでしまう。
「忘れていた、男は狼なんだった。二人きりになっちゃいけないのよね」
シオンの真剣な目と口調を思い出したのだ。
アイオロスは土を払いながら苦笑いをして、先走りすぎの自分を反省した。
沙羅の花びらに飾られたの、この世のものとも思えぬ可愛らしい姿を見れば、こんなにも純粋な気持ちになれるのに。
「、好きだよ」
また風が吹く。ふわり風をまとった男を見上げ、は笑った。
「うん。あたしも好き」
全然違う意味でその単語を使っている。それはアイオロスにも分かっていた。だから忍耐強く微笑んだ。
「のことだけが好きだ・・・俺のものになってくれないかな。何なら今ここで・・・」
純粋になりすぎて本能剥き出しである。
再び手を出しかけたアイオロスの後頭部に、何かが直撃した。ゴン! 鈍い音が沙羅双樹の園に響き渡り、アイオロスは顔面から倒れた。
「きゃあ!」
「大丈夫か」
童虎が駆け寄ってくる。その手に黄金のシールドが握られているのをは見た。
アテナの許しも得ず思い切り独断で、しかもこれ以上ないくらい私的な用件にライブラの武器を使用した童虎だったが、委細構わずの肩を抱き寄せる。
「可哀想にのお、こやつの悪だくみで、キズモノになるところじゃった。もう安心せい」
「でっでもアイオロスが・・・」
「腐っても黄金聖闘士じゃ、死にはせん」
その言葉通り、アイオロスはでっかいタンコブをさすりながら、むっくりと起き上がった。
「童虎・・・何故こんなに早く・・・」
「罠を抜けてきたか、というのじゃろ?」
の肩から手を離さず、童虎はフフン、と笑う。
「聞け! わしには非常に師匠思いの良い弟子がおるのじゃ!」
その頃・・・。
人馬宮の罠にまともにはまり(むしろ師によってはめられ)、最初のメニュー「つり天井」をかろうじてクリアした紫龍だったが、今度は水責めに遭っていた。
かつて十二宮突破の際、一度経験した場所ではあるが、あのときはつり天井のところでしばらく寝ているうちに全て終わっていたのだ。仲間もいない今、一人で全部こなすのは厳しすぎる。
「ろっ老師・・・なぜこの紫龍がこのような。これも修行の一環とおっしゃるのですか・・・」
せっかく大恩ある師に元気な顔を見せようと、聖域まで来たというのに・・・理不尽な思いでいっぱいの紫龍だった。
「おぬしのことじゃから、何かあると思ってな。紫龍と一緒に行ったのじゃ」
「それで代わりに落としたというのか。ひどい師匠もいたものだ」
全くだとも思った。
「わしをあんなところに落とそうとしたことの方がひどいではないか。弟まで使いおって」
「どーでもいいがその手を離せ」
「離さん!」
バチバチと火花がぶつかりあうのを感じて、は慌てて止めに入ろうとする。
「どうしてすぐケンカするの、やめて!」
「・・・すぐケンカ、か」
ふっと緊張を解く。呼応するようにアイオロスの殺気も収まった。
「・・・、おぬしのせいじゃぞ?」
「えっ?」
穏やかな声だったが突然心外なことを言われたので、はびっくりして見上げた。童虎はいつものように包み込むような眼差しを向けてくれていたが、その中に微妙に寂しそうな色があるのを見つけてしまう。
「知らないことが罪・・・その無邪気さが何より酷なのじゃ。わしがこんなに恋慕っているというのに」
深い色の瞳に、自分が映っている。そして彼の黒髪に、淡い花びらが。
はうっとりと手を伸ばす。童虎の髪に触れ、そして花弁を手に取った。
「童虎・・・」
「ち、ちょっと待て、俺の存在を無視するな!」
なんだか二人だけの世界になっているのが許せなくて、アイオロスが慌てて間に入ってくる。童虎は負けずにをかばいこむようにして背を向けた。
「アイオロスよりもわしの方がぴっちぴちじゃぞ。何と言っても10代の肉体じゃ!」
そんな言葉遣いで10代とか言ってもウソくさい。
「なんの、テクニックなら俺の勝ちだ。何しろ死んでいる間は、たまに星矢に加勢するくらいでヒマだったからな。しっかり磨いてきたぞ!」
一体どこをどう磨いていたというのか、死人が。
「早速試してみようか、今すぐここで!」
「ええ〜っ」
「もそろそろ大人にならんとなぁ」
「ひえええ〜っ」
二人に迫られて、後ずさるも逃げられない。それどころかつまづいて見事に転んでしまった。
「あわわ」
乱れたスカートの裾を直すのもおぼつかない。
「・・・」
狼×2が、舌なめずりして襲いかかってくる・・・!
「兄さん!」
「老師!!」
「・・・あっ」
どうしてこうも絶妙のタイミングで邪魔が入るのだろう。少々うんざり顔のアイオロスと童虎に、アイオリアと紫龍が詰め寄ってきた。
「兄さん、早く約束のモノをくれよ!」
「分かった分かった、あとでやるから・・・」
「老師、先ほどのあまりの仕打ち・・・どういうことなんですか」
「あ、あれはの、おまえにあえて試練を与えたのじゃ」
いいところだったのに、早く出て行け! ・・・珍しいことにこのとき、童虎とアイオロスの心の声がシンクロしたという。
「大丈夫か? 」
「あっ、ミロ」
蠍座の聖闘士はのウエストをからめ取り、他の四人から少し離れた場所に連れ去った。
天秤宮と人馬宮に挟まれて暮らしているミロは、常日頃二人の争いのとばっちりを受けていた。たまにはいい目を見たいと思い、『漁夫の利』を狙ってついて来たのである。
「騒々しいなあいつら。せっかくこんなきれいな場所なのに。・・・、もっと静かなところに行こうか、ふたりきりで」
ミロとしてはさり気なく付け加えたつもりの『ふたりきり』という単語は、に激しい拒否反応をもたらした。
「だっだめ、ふたりきりはダメっ」
「何故だ? 色々いいこと教えてやるのに」
ちょっと顔を近付けられ過ぎで、どぎまぎする。
「い、いいことって・・・」
「ロクなことはないぞ」
また別の人の声が降ってきて、はほっとする。
「カミュ・・・」
「こんなところで何してるんだ? シャカにバレるぞ」
「シュラ?」
「、イイコトなら俺様が教えてやるよ。任せておけ優しくしてやるから」
「でっデスマスクまで〜」
見回せば黄金聖闘士がほとんど勢揃いしているではないか。
「みんなどうして・・・」
「普段誰もいない場所に人が集まっていたから、何かあったのかと思って・・・」
「なんてのはタテマエだよタテマエ。お前を狙ってきたんだよ単に」
「今まで、アイオロスと童虎の争いに入っていけなかったから、手も出せなかったんだよな」
確かに入れない・・・というか入りたくないだろう、あの二人には。ちなみに、向こうでは四人でまだ喧喧諤諤やっている。
しかしには、その様子をのんびりと眺めている余裕などなかった。
「二人きりじゃないから、いいだろ」
「いや、ミロ、そういう問題では・・・」
狼が増えただけではないか。しかも囲まれている。
「よし、誰か一人選べ。恨みっこナシだ」
「何言ってんのカノン」
「遠慮はいらんぞ! 」
「アルデバランまで・・・何の遠慮よ〜」
と、縮まりかけていた包囲が止まった。皆が皆、もう一つの小宇宙に気付いたからだ。
強大かつ怒りに満ちた小宇宙が、近付いてくる・・・。
「なにを、やっておるのかーーー!!」
「きっ教皇!!?」
地面が裂ける。花びらが乱れ散る。シオンは言い訳の暇も与えず黄金聖闘士たちを蹴散らし進んだ。
を抱き寄せ、地に伏した男どもにビシッと指を突きつける。
「おぬしら、今度よこしまな考えでに近付いたら減給だと覚えておけッ!!」
その言葉に、全員が石化した。教皇に怒られるよりも、給料が減ることが恐ろしい。
『結局、自分が一番得してるじゃないか・・・』の身体にしっかりと回されたシオンの腕を恨めしそうに眺めつつ、頭を垂れるゴールドたちだった。
更に後日、留守中に沙羅双樹の園を荒らされたとシャカが激怒し、シオンのせいだとはとても言えないみんなは、交代で長ったらしい説教を聞かされるハメになったという。
「教皇・・・」
「よしよし、、怖かったろう。だから気を付けろと言うたのに」
は黙って、シオンの法衣に顔をうずめた。髪を撫でられるままにして、目を閉じる。
言葉を無くしたのは、恐怖の名残などではなく。・・・ただ、戸惑っていたから。初めての気持ちに、胸が潰れそうに苦しかったから。
甘くてとろけて痺れそうな・・・。
には分かっていた。これは種。きっとこの気持ちを大切に持っていれば、いつか「恋」になる。
そして恋をするならお相手は、きっと、黄金聖闘士の中の誰かなのだろうと。
「おはよう、」
「おはようアイオロス、早いのね」
「今日はかなーり早起きしてトレーニング済ませて来たからさ」
いつも一緒にトレーニングしているアイオリアはぶつぶつ言っていたが、構わず元気にメニューをこなしてきた兄ちゃんだった。
「お疲れさま。お茶飲んでいく?」
嬉しい誘いににっこりのアイオロスだったが、
「童虎も来てるよ」
の言葉でガックリきた。今日こそは一番乗りだと張り切っていたのに。
たが、表面上は笑顔でテーブルにつく。
「早いな、童虎」
「年寄りなものじゃからの」
あの日以来、を巡っての関係は変化した。恋のライバルには違いないが、少なくとも敵意むき出しにすることはなくなったのだ。
計画実行で想いは伝えた。後は、彼女の気持ちが熟すのを待つだけ。
「待つのは得意じゃぞ、わしは」
「俺だって」
大滝の前でずっと監視していた人と、逆賊の汚名を着ながらじっと死んでいた人の言うことだけに、その言葉には妙な重みがある。
は嬉しかった。
大切な朝のひとときは、教皇シオンが起き出してくるまで続く。
変わったことといえば、もうひとつ。
「、今度の休みは空いてるかい?」
「ずるいぞアフロディーテ、俺が先に誘おうと思っていたのに」
お昼休み前に、アフロディーテとシュラがやってきた。
「・・・お前たちはいいな、の仕事場に近くて」
ミロもわざわざ登ってきたらしい。
今まで童虎とアイオロスに遠慮していた・・・いやむしろ二人の勢いに引いていた他の男たちも、への想いを隠さなくなったのだ。
「ね、じゃあみんなでどっか遊びに行こうか?」
「みんなで、ねぇ・・・」
「・・・ま、いいか」
の笑顔を中心に、十二宮は平和と明るさを保っているようだ。
もちろん、抜け駆けしてこっそり声をかけてくる者もいたが、下心とまでは言わなくても何らかの期待を持ってのそのお誘いを、はわざと受けてみることもあった。
「・・・」
「ったら・・・」
みんなの前ではあり得ないほどの近さで見つめ合い、触れる身体に熱を感じた。
シオンには内緒で、二人きりのドキドキを味わってみる。良い子のままじゃ、恋の愉しみは味わえないことも知ったから。
いつか自身が、想いを伝えたいたったひとりの人を見つける日まで。
・あとがき・
投票所を使って「ダブルキャラドリーム☆リクエスト」を開催してみました。
「ダブルキャラドリーム」というのはかづなが作った言葉です。ヒロイン一人、お相手キャラ二人で、奪い合いされたりちょっかい出されたりみんなで仲良くしたり・・・というドリーム。複数プレイですな。
そういうの書きたいんだけど自分では思いつかないので、皆さんからアイディアをもらおうと思って。
そこでいただいた提案のひとつに、「アイオロスと童虎」というのがありました。この爽やかで素直そうな二人が怖いくらい腹黒にヒロインを奪い合うという・・・。
コレは面白そうだなと思った。自分では思いつかないダブルキャラ。
ギャグ得意な人ならもっとハジけた話に仕立てられると思います。けど私はギャグ書けないので、こんな感じで。
あんまり腹黒じゃないですね(笑)。
童虎はセクハラじじい、アイオロスは妄想兄さんになってしまったし。
最後にはダブルキャラどころかみんなに言い寄られているし。
とちゃん、別にヘンなことはしてないと思います・・・まだ。だって寸止めの方がドキドキ。
やっぱりちゃんは、最後は様に告白の計画実行でしょうかね?(笑)人馬宮のアスレチックの入り口は、落とし穴に変更させてもらいました。
テレビシリーズのDVDで人馬宮のところを見たよ、わざわざこのために。シオンの役は、最初アテナにしようと思っていたの。ネタ帳にはアテナで書かれている。
でも、書いているうちにシオンがお父さんは心配性みたいになったので、そのままの勢いでいっちゃいました。
シオンの言葉遣いってよく分からないんだけど、こんなんでいいのかな? アニメで「なればこそ」って言っていたのが一番印象に残っています。なんかカッコ良かったのです、「なればこそ」って。
そして聖闘士たちは給料もらっていたのか・・・。
よく考えれば、シオンとかアテナとか紫龍とか登場させるの初めてですね。
H15.8.23
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