常識でしょう。
は、レチクル座の青銅聖闘士である。
「魔鈴ー、シャイナ!」
大げさなほど手を振って、駆け寄る。笑みがこぼれる顔に、仮面はない。
女性が聖闘士になる際、女を捨てるため仮面をつけなくてはならないという厳格な掟は、沙織がアテナとしてここ聖域に君臨したときに「古くさいわ」の一言であっさり廃止させた。
魔鈴のようにいまだ素顔を見せない女子もいるが、はむしろ喜んで、自由な呼吸と頬や額に触れる風を楽しんでいる。
アテナを迎え、ポセイドンやハーデスとの聖戦を経て。の身近でもめまぐるしい変化が起きた。
そして、彼女自身がまだ気付いていないものも、確かに生まれている。
をようやく見つけて、カノンは思わず笑顔になる。
海底と聖域を行ったり来たりの彼は、特に海での仕事が長くかかった後など、むしょうにの顔を見たくなる。聖域に戻るやいなや、手伝えとうるさい兄を振り切り、その姿を探してしまうのだった。
(・・・)
他の女子聖闘士たちと楽しそうにお喋りしている。明るく笑う様子から目が離せない。仮面廃止にばんばんざいだ。
(今日こそは、メシにでも・・・)
といつも思うものの、情けないことになかなか誘えない。
いや、声をかけるのはそれほど難しいことではない。思春期の青少年じゃあるまいし、そんなことに大した勇気は必要ない。
ただタイミングが合わなかったり、はぐらかされたり、もしくは邪魔が入ったりして、結果的に一度も応じてもらえていなかった。
「邪魔」のことを考えると、たちまち不愉快になる。とにかく今日こそはと足を踏み出したとき、気付いてしまった。
に同じような熱い視線を注いでいる男の存在に。
ころころと笑う姿の、何と愛らしいことだろう。それに聖闘士とはいえ、その体の華奢なこと。守ってやらなくてはと思わせるような。
有休を使って冥界から出てきて良かった。もっとも、パンドラ様はいい顔をしなかったけれど。
ラダマンティスは物陰からをうかがい、ぽーっとしていた。
彼女を見初めたのは、ハーデス様とアテナが一応和平を結んだとき、挨拶にと聖域を訪れた折のことだ。
あまた女性のいる中で、だけは何か特別な輝きをまとっているかのようで。一目で惹かれた。
それ以来、何かと用事にかこつけたり、休みの日を利用しては聖域に通うようになったのだ。
(・・・)
だがもちろん、眺めているだけで満足、というわけにはいかない。今日こそ誘わなくては、休みまで取った甲斐がないというものだ。
(今日は邪魔者が来なければいいが)
いまいましい顔を思い出し、舌打ちをする。
ラダマンティスは一歩進み出、同時に、気がついた。
こちらをにらんでいる、まさに今思い浮かべていた顔に。
「カノン・・・」
「ラダマンティス・・・」
目を合わせたとたんに、火花が散る。
お互い、に対する気持ちはとっくに知れている。牽制し邪魔をし合うのも当然の成り行きだった。
「何だラダマンティス、こうしょっちゅう聖域に来るところを見ると、よほどヒマらしいな、冥界三巨頭とやらも」
「フン・・・おまえこそ潮臭いが、海闘士なのか聖闘士なのかハッキリさせろ」
「ンだとこの・・・」
「やるか・・・!?」
火花はますます激しくなる。
「あら、またやってるよあの二人」
堂々たる体躯の男が言い争っていれば、いやでも目を引く。
シャイナはニヤニヤして、魔鈴に目配せをした。もそちらに目を向ける。
「カノンに、ラダマンティスじゃない!」
とたん、目を輝かせ、両手を胸前に組む乙女ポーズで奇声を上げた。
「キャーッ絵になる! ゼッタイあの二人って、そーゆー関係だよね! ねっねっどっちが攻だと思う!?」
「・・・アンタねぇ・・・」
はなはだしい勘違いに、魔鈴は頭を抱えるが、はすでに一人妄想の世界へ旅立っていた。
「禁断のボーイズラブ・・・いえボーイズかどうかはかなり疑問だけど。とにかく、美しいからいいわー許すわー!」
そう、は腐女子街道まっしぐらの聖闘士なのである。
ラダマンティスとカノンのいさかいも、ビジョンでは恋人同士のいちゃつきに変換される。
聖戦時、冥界にて繰り広げられたカノンとラダマンティスのつばぜり合い、またその壮絶な決着について伝え聞いてから、ますますのゆがんだ熱は燃え上がり、あの二人は浅からぬ仲だと確信するに至ったのである。
むろん、実は二人ともに想いを寄せられているなど夢にも思っていないのだった。
「ああ、他の人たちもこんなだったらネタ満載でもっと楽しいのに。ねえ魔鈴、アイオリアだったら、ムウ様とのカップリングなんかいいと思わない? そうじゃなければシュラとかシャカとか・・・キャー萌え! アイオロスだったら妖しすぎ!? やっぱり近親相姦ってマズイよねっ!?」
「いや、兄弟とか以前に、男同士だしねぇ」
アイオリアのカップリング論など持ちかけられても、魔鈴としてはどう返したらいいものか。もはや呆れている。
「うーんなんか汁な絵が浮かんできた・・・描けそう、描こう! じゃシャイナ魔鈴、また後でね!」
好きなだけひとりで語ると、はダッシュで去った。全身から、萌えオーラを立ち上らせて。それは一見小宇宙に似ているが、不純さの点で明らかに別物なのだった。
「・・・やれやれ。アレさえなければ、いい子なんだけど」
見目良い男が連れ立って歩いていようものなら、もうギラギラして、シャイナたちには意味の通じない単語連発で暴走し、挙句「絵を描く」と言い残していなくなってしまうんだから。
「どっちにしても、哀れなのはあの二人だよ」
「まったくだね」
お目当ての少女がにとっくにいなくなってしまったことにも気付かず、まだ威嚇しあっている男たちを見て、シャイナと魔鈴はつい吹き出してしまうのだった。
「くっ、また今日もカノンの奴に邪魔されたか」
休日は無情にもあっという間に過ぎ去ってしまう。
結局、に一言も話し掛けることはできず、ただカノンとやり合っただけで一日が終わってしまった。無駄どころか、これほど腹立たしい時間の過ごし方があるだろうか。
仕方なく冥界に戻ったラダマンティスは、自分の部屋でふて寝をしつつ、独り言をつぶやく。
「カノンめ、ことごとく俺の前に現れおって。奴さえいなければ、はとっくに俺のものなのに」
が腐女子である限り、それはありえないということに、ラダマンティスは気付いていない。
「このままでは埒が開かん。聖域にいる分、カノンの方が有利と言えなくもないし・・・。少し強引な手段に出るのもやむを得まいな」
好きな女の一人くらい、手に入れられなくてどうするというのか。
ラダマンティスは決心を固めた。
「畜生あのストーカーめ、冥界でじっとしていればいいものを」
同じ聖域にいるのに、いまだ食事にも誘えないとは。全部あいつのせいだ。
「まったく腹が立つ!」
クッションを引っつかみ、感情のまま投げつける。ちょうどドアが開き、誰かが顔を覗かせたが、光速のクッションはいともたやすく受け止められた。
「何をやっているんだカノン」
「サガ!? ノックくらいしろよ」
双子の兄はクッションを投げて返す。
「ノックも聞こえないくらい大声を出していただろう。もうこんな時間だ、静かにして早く寝ろ」
それだけ言うと、ドアを閉めて行ってしまった。
「いつまでもガキ扱いしやがって・・・面白くねえ!」
ばふっとベッドに仰向けになる。天井ににっくき男の顔が浮かぶので、横を向いた。
「あいつが何かする前に、をモノにしないと・・・いやすぐするべきだ」
カノンは決意した。
数日後、お使い帰りのは、見知った顔に出くわした。
「ラダマンティス!」
自分から笑顔で声をかける。
「今日はカノンと一緒じゃないの? 残念だなぁ」
二人のデートシーンこそ、眼福というものだろう。
の口から忌むべき名前を聞いて、ラダマンティスは不快だったが、今日は大切な目的がある。
「、一緒に来てもらおう」
「え? え・・・?」
有無を言わさず腕を引く。もう惑っていられない。
「あのー・・・」
ちょこんと座らされて、は居心地が悪かった。いきなり冥界に連れてこられて、しかもここはどう見てもラダマンティスの私室だ。わけが分からない。
「すまない。邪魔の入らないところで話をしたかった」
「話って、私に一体どんな・・・」
それは顔を合わせれば挨拶くらいはするけれど、何を改まって話すことがあるのだろう。
「・・・はっ、もしや恋の相談? カノンと何かあったの?」
真剣な顔で言われ、ラダマンティスはいらいらする。どうして何かにつけて奴の名を出すのか。
「そんなことではない、お前自身に話があるのだ。」
軽く手を取り、椅子から立たせる。抱き寄せるまでは出来ないから、せめて肩に手を置いた。
「お前が好きだ。初めて見たときから・・・」
ラダマンティスの顔を間近でうっとり見つめ、「このカッコ良さ、カノンとは本当にお似合いだわ〜。ベッドではどんなかな・・・」などとあらぬ妄想を広げ始めていたには、寝耳に水の言葉だった。
「・・・は?」
意味が、言葉通りには頭に入ってこない。
「」
少なくとも抵抗されないことを見て取り、ラダマンティスは手に力を加える。もうこんなチャンスはないかもしれない、そう思うといつもになく大胆になれた。
「お前がいつ他の男に取られるかと思うと、いてもたってもいられなくなる。もうそんな心配はしたくない」
「あ・・・」
接近されて、ときめいてしまう。
(いやーん、カノンにもこんなふうに迫っているのね〜〜)
どこまでいっても発想はこれだったが。
ラダマンティスの手が、の背中に移動しかけたとき。
「失礼」
「お邪魔ー」
前触れもなく、二人の男がどやどや入り込んできた。見慣れない女性を、面白がって取り囲む。
「へえ、ラダマンティスでも女連れ込むことってあるんだな」
「驚きましたね。聖闘士ですか? 可愛らしい顔をして」
言うまでもない、ミーノスとアイアコスである。
ラダマンティスは大声で文句を叫びたかったが、一瞬の硬直で言葉にならない。に手を触れさせないようにかばうのが精一杯だった。
「こういう、泣かせたくなるような子っていいですねぇ」
「なあ俺も仲間に入れろよ。どーせこれからお楽しみのつもりだろ?」
「おっお前らと一緒にするな!!」
片手を大きく振って追い払おうとする。今ほど、冥界三巨頭としてこいつらと名を連ねていることを恥と思ったことはない。
「後で覚えておけよ・・・」
に悪印象を植え付けたお礼をくれてやる。
とはいえ当のは、
(ミーノス×アイアコスってのもアリかも。あっリバースでもいけるかな)
相変わらずだった。
「俺はお前たちとは違う。さっさと出ていけ!」
「あー、パンドラ様がお呼びなんだよな」
「なんだと」
「あなたの近ごろの勤務態度について、お話があるそうです。それで呼びに来たのですが」
「それを早く言え。それにわざわざ二人で来るな!!」
結局、ラダマンティスはを聖域に帰さないわけにはいかなかった。
冥界ならばいかにカノンといえど簡単には出入りできない。そう思ってやっと連れてきたのに。
「とにかく、俺の気持ちは分かってもらえただろうが・・・」
「うん。部屋に女の子連れ込んで、仲間たちと襲っちゃおうっていう・・・」
「ちっ違う! それはあいつらが勝手に!」
顔色なくしたラダマンティスに、は冗談冗談、と笑ってみせる。これくらいのこと受け流せなくては、男ばかりの聖域で暮らしていけない。
「でもラダマンティスったらそんな、無理に女の子に興味があるように見せかけなくたって」
「えっ」
「隠さなくてもいいわ。カノンとのことをカモフラージュするために、私に手を出すふりをしたんでしょ」
「なに?」
言っていることが分からない。
ラダマンティスのけげんな顔も、は演技だと信じて疑わなかった。
「愛に性別なんて関係ないって、そんなの今時常識でしょう。私は応援しているからね!」
一方的に手を握る。一方的に友好的な握手を交わし、は元気に走り去っていった。
「・・・何のことだ・・・」
もう呼び止めることも出来ない。ひとつだけはっきりしているのは、彼女に愛が伝わらなかったということだけだ。
「いかん、このままではいかん」
落ち込むし焦りもするが、まずはパンドラ様のお叱りを受けに行かなくては。
後でもう一度、聖域に行ってみよう。
ラダマンティスは肩を落としたまま、冥界へ戻った。
「、捜したぞ!」
聖域に足を踏み入れたとたん、カノンが走り寄ってくる。
「あのねカノン、さっき・・・」
彼の恋人に会ったのだと話そうとしたところが、半ば強引に腕を引かれ言葉をなくす。
「ちょっと来い」
「あのっ・・・」
あれよあれよという間に、海へと引きずり込まれた。
冥界の次は海底・・・聖戦の舞台を一日にして巡ることになろうとは。今日は何て日だろう。
「聞いて欲しいことがある」
「言わなくても分かるわカノン。ラダマンティスとのことでしょう?」
二人の間に、何かがあったのだろう。これはもはや疑いようもない。なぜその余波がこちらに来るのか謎だけれど、は出来るだけのことはしてあげようと心に決めていた。
「私は同性愛を特別視したりしないから、安心して」
むしろ推奨。心の中ではニヤけている。
カノンは眉を寄せた。
「ワケ分からんこと言っているが・・・ちゃんと話を聞け」
「うん、聞くわ」
神妙な顔を作ったに、カノンは接近する。近くで見るとますますカッコいい。もし同じ顔のサガと絡んだりしたなら、それはまさにめくるめく倒錯の世界で・・・。
「・・・お前のことが好きだ」
「・・・カノン」
妄想に半分入り込んでいただったが、言葉は聞こえていた。
「ラダマンティスにも同じこと言われたけれど、いいのよそんな、女の子に興味あるフリは。周りのみんなにも理解してもらえるように、私も協力するからね!」
「なにっ、奴にも同じことを言われただと!?」
カノンの耳にはセリフの前半分しか入ってこなかった。
「あいつめいつの間に。それで、お前はどうしたんだ。まさかOKしたなんてことは・・・」
「とんでもない!」
二人の仲を知っていながら、そんなこと!
の断固とした否定は、カノンを一応ほっとさせる。だが先を越された焦燥は感じずにいられなかった。
今のうちに、モノにしておかなくては。
「」
勢いに任せて押し倒そうとする。
「何するのーカノン!」
「好きなんだよ」
「いやーん、そんなにまでしてホモを隠さなくたって!」
血走っているカノンには聞こえない。そしてにはこれっぽっちの危機感もなかった。
会話も感情も何一つ噛み合うものがないまま、二人は床にもつれ倒れる。
『どけよ、よく見えないだろ』
『お前こそどけって』
『あ、ヤバ・・・』
バン! ドアが破られ、数人の海将軍が勢いよくなだれ込んでくる。
「お前ら・・・」
ゆらり立ち上がったカノンににらみつけられ、皆はごまかし笑いを浮かべつつ後ずさった。
「これはそのー」
「カノンが女の子連れてきたってアイザックが言うから」
「いやソレントが覗きに行こうって言ったから」
「僕じゃない。バイアンが・・・」
「何を言っているんだ、一番乗り気だったのはイオで・・・」
「ちっ違う、カーサが」
「クリシュナが」
「ポセイドン様が」
「・・・ガキどもが」
中断させられたことが残念というより、みっともなくてしょうがない。こんなところを見られるとは。
「あっち行け、見世物じゃねえっ!」
怒鳴り散らして追い出しながら、今日モノにすることは無理だ、と肩を落とすカノンだった。
カノンに連れられて海から上がったら、そこにラダマンティスが待ち構えていた。
「ああっ待ち合わせだったのね! これからデート!?」
わくわくきらきらしているのはだけで、カノンとラダマンティスの間には不穏な空気が漂っている。
「貴様またにつきまといやがって」
「貴様こそ海の底にまで連れていって何をしていた」
「ラダマンティスだって、冥界に私を連れていったじゃないの」
の何気ないツッコミを聞いて、カノンの額に青スジが浮かぶ。
「冥界にだと・・・どういう了見だ」
「貴様には関係のないことだろう」
居直ったか、泰然としている。ラダマンティスのその態度は、カノンを激昂させた。
「いい加減にしやがれ!」
感情のまま拳を放つ。すさまじい威力がラダマンティスを襲うが、彼はなんなく避けた。
「何のつもりだ」
反射的に構えを取る。カノンも油断なくにらみつけてから、ひきつったような笑いを漏らす。
「そうさ、もっと早くこうすりゃ良かったんだ。お前をぶちのめして、を俺のものにする」
ラダマンティスも、軽く頷いた。
「いいだろう。にふさわしいのはどちらか・・・聖戦のときの決着も、今まとめてつけてやる」
「やめてー、話し合えば仲直りできるはずよ!」
の必死の叫びも、攻撃的な小宇宙に阻まれ男たちには届かない。
「冥土に送り返してやる!」
カノンの手の中から、宇宙が生まれる。
「貴様の行き先はコキュートスだな!」
ラダマンティスの背後に、ワイバーンがオーラのように現れる。
「ダメよ!」
星々は砕け、閃光が弾けた。
「ギャラクシアンエクスプロージョン!」
「グレイテストコーション!」
解放された小宇宙が迸り、互いの間で爆発する!
「やめてー!!」
「−−!?」
標的の前にさしはさまれた影に二人同時に気付き、瞬時に力を逸らそうとする。しかし完全に止めるところまでは至らず、衝撃は影に・・・飛び込んできたの身体に、襲いかかった。
「うあっ!」
短い叫び声をあげ、は地面に倒れ伏す。
「っ!!」
ラダマンティスとカノンは慌てて駆け寄り、抱き起こした。
の体は一瞬にして無数の傷にまみれ、鮮血が流れ出ている。
「・・・仲良くしてよ・・・愛する者同士が戦うなんてそんなこと、ダメ・・・」
「喋るな」
「しっかりしろ」
ギリギリ威力を逃したとはいえ、実力では名高い戦士たちの必殺技を同時に受けたのだ。その身のダメージは、計り知れないものがある。
「くっ・・・」
手早くの服を脱がせ、出来うる限りの応急処置を施した。こんな場合だ、ライバル同士とはいえ無言で真剣に、協力すらし合いながら作業を進めてゆく。
(ああ、やっぱりホントは仲良しなのね・・・仲直りのきっかけになったなら、良かった。だって別れられたりでもしたら、萌えネタがなくなっちゃうもん・・・)
薄れゆく意識の中、最後にが思っていたのは、そんなしょうもないことだった。
それから、数日後。
(あ、そろそろ来るかな)
時計を見てリハビリを中断し、ベッドに戻る。ほどなくノックの音がして、果物を手にカノンが入ってきた。
「どうだ、調子は」
「うん、元気よ」
青銅でも聖闘士、回復力も並みの人間が及ぶところではない。
だから心配はいらないし、勝手にやったことだから責任を感じることもないと言っているのに、カノンとラダマンティスは毎日欠かさずお見舞いに来てくれるのだった。しかも、いつもきれいに時間をずらして。
イチャつくところを見せないようにとの心遣いだろうとは思っている(でもむしろ見せて欲しいと思っている)が、真実はもちろん、逆のところだ。
「もうケンカなんてしないでね」
「それは、お前次第だ」
「私? なんで?」
きょとんとしているから、少しいら立ってしまう。
「俺たちの気持ちは分かっているんだろう。お前さえ態度をハッキリさせてくれたら・・・」
外に立っている人影がピクリと反応する。今日は早目に着いてしまったラダマンティスであった。立ち聞きするつもりはないが、思わずドアに耳を近づけてしまう。
「カノンたちの気持ちって、あの、つまり恋愛感情についての・・・?」
もちろんの頭にはカノンと対のラダマンティスしか浮かんでいない。
カノンは頷いた。
「そうだ。お前を好きだということだ」
「え、またそんな」
「もうはぐらかすのはやめろ」
はぐらかしているのはどっちだ。とはちょっと飽きた心地だったが、そのときせわしなくノックをしてラダマンティスが踏み込んできた。
「待て、それについては俺も言いたい。、俺だって冥界で言った通り、お前のことを好きなんだからな」
「・・・ええっ」
二人の真剣な眼差しにさらされて、さすがのも本気を汲み取らないわけにはいかない。
「まさか、本当に私を・・・? 二人が好き合っていたんじゃないの・・・?」
常識でしょう。そう思っていたのに。
自分が二人の男に告白されたことよりも、その常識が覆されたことの方が、よほどにはショックだった。
「うそぉ・・・」
そのままベッドに倒れ込んでしまう。
「!」
『貴様のせいだ!』ラダマンティスとカノンは、静かににらみ合うのだった。
が二人を恋愛対象として意識し、ときめきながら揺れ動くようになるのは、これから少し後のことである。
・あとがき・
カノンとラダマンティスというのは、投票所に投票があったので意識したダブルキャラです。
確かにこの二人は因縁あるし、世間にはカップリングもあるし(笑)。
なんたってどっちもいい男!
そういうわけでこんな話を。ネタは前からありました。
傾向としては「計画実行」に似ている。当の本人がなかなか二人の恋心に気付かないというのも似ている。
カノンとラダマンティス、同じパターンを繰り返して物語は進んでいきます。相手をホモだと信じて疑わないというのは、アルベルト兄ちゃん&ミックパターン(byパプワオリキャラ)ですね。そこから流用しています。
私は、そっちの方に疎いので、用語の使い方が間違っているとか、もっとふさわしい言葉があるとか、そういうのありましたら教えてください。
あっ、私自身は男同士のカップリングって書きませんが、決して否定するつもりはありません。時々、そういう女性向のイラストや小説を楽しませてもらっています。
その「描き手」のつもりでちゃんを設定しました。
聖闘士にしたのは、普通の女性だといくら力をセーブしたとはいえ、この二人の技を受けて生きていられるわけはないと思ったから。仮面をなくしたのは、ない方が楽に進行しそうだったからです。
特にそういう理由がなければ、細かい設定をつけたりしないんですが。
H16.3.8
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||