犬と猫
「ねえ、何なのコレ」
身じろぎをすると、じゃらりと冷たい音が鳴る。ふたつの手錠は、の両手首をそれぞれベッドへ繋ぎとめていた。
目の前には、よく似た兄弟たちの顔があって、ニヤニヤ楽しそうにこちらを見ている。
「こんなのイヤ、玩具扱いじゃない!」
まるでペット、自由を奪われ一方的に愛撫される犬猫のような。
「今日はバレンタインデーだから、好きにしていいって言っただろ」
抵抗されるなんて心外だといった口調で、アイオリアはキスをしてくる。
「大丈夫。ひどいことしないし、ちゃんとよくしてあげるから」
アイオロスは優しく大腿を撫でさすった。
身にまとっていたものなど、とっくに全部剥ぎ取られている。ほんの軽く触れられただけでまるで電気が走るようだ。いつもより敏感になっている・・・。
「もう・・・」
は諦めを装って、体から力を抜いた。麻痺しかけていること、二人にはバレているだろうけれど。
アイオロスとアイオリアは、ちょっと品なく笑っている。それにますます煽られる。
「じゃ始めようか」
「持ってくるよ」
アイオリアがベッドを下りた。すぐに戻ってくるのと同時に、甘い匂いが部屋中に広がる。
不審に思い不自由ながら首を上げると、アイオリアの手に金属のボウルがあるのが見えた。
「何・・・チョコレート?」
匂いがますます濃厚なものとなる。
「当たり」
ボウルの中から刷毛を持ち上げると、カカオ色の溶けたチョコレートがとろり流れ落ちる。
「バレンタインデーといえばこれだろ」
再びのそばに座り、アイオリアはもう一度同じ動作をしてみせた。
たらたらたら・・・・なめらかにこぼれる、甘い液体。
「・・・まさか・・・」
ある予感に、打ち震える。
まさか、これを。
「クーベルチュール」
アイオロスが一言、そう言って。
弟が三度目に持ち上げた刷毛は、の胸元に下ろされた。
「ひゃっ!」
生温かいチョコレート、それを胸の上に広げてゆく刷毛の感触に、は悲鳴に似た声を上げ身もだえる。
「いやあ、何するのよー」
「最高級のチョコレートを味わわせてくれよ」
どこまでも冗談のように笑い合いながらも、アイオリアの手は止まらない。何度もボウルからすくいながら、たっぷりとチョコのコーティングを施してゆく・・・の肉体に。
アイオロスは手も触れることなく、そのさまを黙って見守っていた。
のきれいな肌が、茶色い液体で汚されてゆく。膨らんだ胸からウエストの一番くびれたところまでも覆われて、今や下腹にまで及んでいるのだ。
その異様で淫らな光景を目の当たりにして、興奮を覚えないはずはない。まして、これからすることを想像すれば。
「いやぁ」
とて同じだろう。半開きの唇から漏れる、最初とは明らかに違う喘ぎの声が、彼女の求めを物語っている。
「こんなによがって。スキなんだな」
だからこそ三人は気が合った。いや、肌が合ったというべきか。
犬みたいにすり寄りじゃれ合って、猫のように舐め合って。
そんなふうにいつも三人、秘密の付き合いを重ねていた。
独占したい愛情でもなく、さりとてまったく体だけの関係でもなく。
奇妙だろうけれど、自分たちにとっては自然なバランスで、アイオロスとアイオリアとは繋がっている。
そして、バレンタインデーというイベントにかこつけて兄弟が思いついたのが、こんな性戯だったのだ。
体の表面に、ぬるくてねっとりしたものを、しかも刷毛で塗りたくられて、の方も感じずにはいられない。いられないどころか激しい前戯をされたときのように、息を荒げ声を出し、身体をびくびくと反応させていた。
胸焼けしそうな匂いに、非現実的な感覚まで呼び起こされて。
「はあっ・・・」
脚のつけ根まで進んだところで刷毛を引き上げられた。息を整えながら、うつろな眼で天井を見つめる。
疼きは鎮まるどころかますます高まり、物足りなくなってくるのにそう時間は要らなかった。
目で訴えると、アイオリアは分かっているといったように。
「もすっかりその気だし。最後はココだな」
「じゃあ、やりやすいように、と」
下肢には何の拘束もない。アイオロスは楽にの脚を開かせ、わざわざそこを覗き込む仕草をした。
「どれどれ」
想像とたがわず、もう溢れ流れている。嬉しくて愛しくて、目を細めた。
「こんなにしちゃって」
「仕方ないよ兄さん。はエッチな子なんだからさ」
「ああ。こんな本性、他のみんなが知ったらビックリするだろうな〜」
「いっいやっそんなこと言わないで!」
からかわれて真っ赤になる。隠したくても、両手の自由を奪われ、膝を押さえつけられている状況ではとても叶わない。
「本当のことなんだから。ほら、欲しがってる」
指で押し広げて、それでも直には触ってこない。見られているところが、じくじくしてどうにもならないというのに。
「ん・・・もう・・・」
懇願したくなる。
「このままでもおいしそうだけど、何たって今日はバレンタインデーだから」
そう言うアイオロスも、かなり我慢していた。もちろん、弟の方も。
「とっとと仕上げといくか」
もはやじらす手管も忘れ、べっとりチョコレートを塗りつける。
「混ぜてしまおう」
かき回すと、液体の何ともいやらしい音がする。そこにの遠慮ない喘ぎ声が加わり、感官を高めていく。
特に、感じる部分をいつもとは違う手段で責められ続けているは、逃げ道もなく追い詰められる一方だった。
生温かさと異質な感触、何よりも柔らかく触れてはまた遠ざかってゆく、もどかしさが。
「や・・・あっ」
もう少し、留まってくれたら。願いもむなしく、刷毛はの秘所を繰り返し往復するだけ。
「やだぁ、してよ・・・」
取り繕えない、いきつきたい。
「もう、いいか」
誰にとっても、限界だ。
アイオリアはボウルをサイドテーブルに置いた。アイオロスは、脚をますます大きく開かせた。
「いただきます」
二人同時に手を合わせて、極上のチョコレートを口に含む。
胸の柔らかいところと硬いところ、それから、体の中心の、とろけたところ。それぞれ、甘さを存分に味わった。
「うまい」
「の味がする」
本当に、おいしそうに。
(犬と猫みたい)
誰が犬で誰が猫か。
思いつきも、すぐに飛ばされてしまう。
一心にチョコートを舐め取る男たちの中で、ただ喘いで悶えて。
「あ・・・」
不自由な身体を精一杯そらし−。
「あああ!」
「・・・あれ、ひとりでイッちゃったな」
「ま、いいさ」
アイオリアは手枷を外してやる。
一度気をやった裸身は、ぐったりとしたままだ。
「今度は俺たちが楽しませてもらおう」
甘い体を、中で味わいたい。
なすがままのを、うつぶせにしてやる。
「・・・や、シーツに、チョコが・・・」
この期に及んでシーツの汚れなど気にするを、兄弟は笑った。
「なに、クリーニングに出せば済むことだ」
チョコレートべったりのシーツを見たら、クリーニング屋さんはどう思うだろう。
などとは考えるが、
「いつもシーツなんてべちょべちょにしてるじゃないか。今さらそんなこと気にするなよ」
「・・・・」
アイオロスの一言で、何も言えなくなってしまう。
「もう、あなたたちって」
「俺たちが、何?」
同じだろ、俺も兄さんも、それにも。
そう言ってアイオリアは、の頭側に回った。
「チョコレート塗ろうか?」
「いらない」
そのままがいい、と、片手を添え、舌を這わせる。
「俺も」
「・・・あっ!」
兄に侵入され、敏感になりすぎている体を弓なりにする。
「ちゃんとやって」
アイオリアに頭を軽く押さえつけられ、再び口を塞がれた。
「うっ・・・う」
苦しい感じは、快さに通じる。
犬猫みたいな格好で、上にも下にも受け入れて、二度目の感覚も近くなってくる。
「ダメだぁ、もたない」
の中が、良すぎて。
うめく兄に触発されたでもないだろうが、弟の方も、寸前だった。
「、もう・・・」
「・・・・ん・・・・」
動きが、止まって。
二人分を、体で受け止めた。
「ワガママ聞いてくれて、ありがと」
「すごくおいしかった、のチョコレート」
かわるがわるにキスをされた。お菓子の味の、甘いキス。
「へへ。ホワイトデーが楽しみだなー」
お返しに、何をしてもらおうか。
たくらみを込めて見回すと、男たちは大げさに肩をすくめてみせる。そっくりな動作がおかしくて、はくすくす笑った。
「そのままだと気持ち悪いだろ」
「洗ってやるよ」
促してベッドを下りる。チョコレートのついたシーツも取り去ってしまった。
そのまま浴室に移動して、また満たされることのない欲望をぶつけ合う。
いつも、アイオロスとアイオリアとは、こんなふうだった。
犬と猫みたいに。
・あとがき・
体に何か塗りつけて舐めるというのはよくあるネタです。バター犬の発展形?
バレンタインデーだからチョコレートでやってみようと思いました。
しかし誰をお相手キャラにするかは悩んだ。ある程度余裕ある遊びじゃないとカッコ悪いから、大人の男じゃないと。でもあまりにも上品なイメージのあるキャラだと合わないし・・・と(別にこの兄弟が下品だと言っているのではないですよー)。
途中から、ダブルキャラにしようかなと思いました。二人の方が、より遊びって感じがしていいかなと。一対一だとシャレにならなさそうで。
ということで、結局、アイオロスとアイオリアに落ち着きました。
最初から最後までただのエロ。
私、結構、性愛については真面目なテーマを持って書いたりするんだけど、今回のは本当に単なるお遊びです。
だから脈絡もなく複数プレイ。説明もなく三人でエッチ。
まああのー、こういう関係ということで、納得してください。
お口でするというのは、ちょっと迷ったんですけどね。ドリームでその行為ってどうなんだろうと。全般的に、あまり詳細な描写はしてません。露骨すぎるのってイヤだから。
だからちょっと、分かりにくいかも知れないけど、それぞれの想像力でお読みください(無責任)。
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