半分こ。
お休みの日の、朝が好き。
大好きなだんな様と一緒に、ベッドでいつまでもゴロゴロしていられるから。
こんな幸せも、の場合は二倍になる。
なぜって、の夫は、二人いるのだから。
「あ、カノン起きてたの、おはよう」
「シーッ」
唇でふさいで黙らせて、愛する妻の上に重なる。
「兄貴が寝ているうちに・・・」
「誰が寝ているって?」
意地の悪いタイミングで、サガが体を反転させた。こちらに背を向けているから、てっきり眠っていると思っていたのに。
「・・・ちっ、またひとり占めできなかった」
隣で「おはようのキス」を交わしている二人から目をそらし、唇をかむ。
は双子と結婚し、双児宮にて楽しい暮らしを営んでいる。
ひと部屋をまるまる占領している巨大なベッドは、甘く幸せな新婚生活の象徴のようなものだ。夜はたいがい三人、ここで仲良く眠りに就くのだった。
「をひとり占めしようとは、相変わらず強欲な心が消えないなカノン」
「とか言って、から離れないおまえはどうなんだ」
カノンは悔しくて、反対側から大好きな妻の身体に抱きつく。
昨夜の夜更かしの名残りで、三人とも素肌にほとんど何もまとっていなかった。
二人分の体温に包まれると、心地よくてひとりでに笑ってしまう。
世界中で一番幸せな新妻だ・・・。
「でも、ガキのころからサガばっかいい目見て、俺は日陰の身だったからな。半分こなんかしたことなかった」
繰言ではない。あっけらかんとした口調に、憎悪や悔恨といったものはみじんもなかった。
「何を言っている。昔、アイオロスにもらった菓子を半分やったことがあるだろう」
「それだけじゃねえか」
悪態をつくようにしながらも、カノンは内心嬉しかった。あんな小さなことを、サガも覚えていてくれたなんて。
(・・・いいなぁ)
こんなときいつも、はほんわか気分に包まれる。
もちろん、夫たちについてこれまでのことを聞かされてはいる。けれど、戦いの終わった今となっては、心の中で互いが互いを思い合っていることを、も折に触れ感じているのだった。
妻である自分にも入り込めない強い絆が、うらやましい。
「・・・そうだな。双子でありながら、何も共有したことはなかったな」
「ま、せいぜい仲良く半分こしようぜ。だけでも」
冗談めかして、カノンは妻の肩口に唇で触れる。
「半分なんて、大事なをモノ扱いするとは何事だ」
たしなめながら、サガも同じようにキスをする。
はくすぐったくて笑った。
「半分こしても大丈夫よ。私の気持ちは、二倍か、それ以上になっているんだから」
二人同時のプロポーズを受けたあの日に、愛情はぐんと膨らんだ。
好きな気持ち、大切に思う心がこんなに大きくなるなんて、はそのとき初めて知った。
それは、愛の秘密のひとつ。
「分けても減らないから、いくらでもあげる」
「・・・フッ・・・フフフ・・・そうか、いくらでも、か・・・」
いきなり別人のような声が響き、とカノンが驚いて見ると、どす黒い空気の中にサガがうずくまっているではないか。
「サガ」
「チクショーまた出てきやがったな」
髪の色が変わって。
「ハーッハッハッ! 私に残らず捧げよ、!!」
もう一人のサガ、久々の登場である。
「そらこっちへ来い」
「キャ〜」
サガだけれどサガではない。顔つきが邪悪そのものだ。
ほとんど裸で襲いかかられれば、いかに夫といえど、及び腰になってしまう。
「てめーどこまで邪魔する気なんだ、ふざけんな!」
「フン、あいつのモノは私のモノだ!」
「何だとー」
カノンは自分勝手な黒サガをつかまえ、押さえつける。サガの抵抗も激しく、とうとうベッド上で取っ組み合いのケンカが始まってしまった。
スウィートホームを破壊するわけにはいかないので、技こそ使わないものの、二人とも100%本気で激しく殴り合う。
さすが双子というか、実力は拮抗しており、勝負らしい勝負はなかなかつかなかった。
「・・・あれ」
「むっ、が」
気がつけば妻の姿が消えている。
我に返ると、裸でからまっている男同士の図が気持ち悪くなり、サガとカノンはにらみ合いながら離れた。それぞれ肩で息をしているのが、争いの壮絶さを物語っている。
「朝ご飯、できたよー」
寝室のドアを開けて、がさわやかに顔を出した。
この派手なケンカの隙に、朝食を準備していたとは。
「コイツと朝メシかよ」
「何度言えば分かる、私はサガだぞ!」
火花を散らす二人の間に、は割って入った。
「早く、冷めちゃうから」
そしてカノンにも、悪い方(?)のサガにも、等しく笑顔を向けるのだった。
この人も、サガだと受け入れよう。
増える膨らむ、愛の心で。
「・・・うっ!」
苦しそうにうめいて、サガは再びうずくまる。
「サガ、大丈夫?」
「放っとけよ。元に戻るだけだろ」
カノンの言ったとおり、みるみる髪が元の色に変わってゆく。やがてゆっくり上げたその顔は、いつものサガのものだった。
「ふう・・・すまないな」
「いいのよ」
「いい加減にしとけまったく。心配しただろ!」
「その割には、手加減なしでやってくれたじゃないか」
体中のキズやあざに顔をしかめる。
同じような姿のカノンは、フン、とそっぽを向きながらも、顔にのぼってくる笑みを止められなかった。
「どうも、三人でいるときだけ出てくるようだ、あいつは」
自分の中にまだ存在していることは認めていた。しかし近ごろはほとんど出てこなかったし、出てくるとしてもこんなプライベートタイムに限ってのことだ。
「その方がいいじゃないの。仕事中に人格交代なんかしたら、大変でしょ」
「そういう問題か? は優しいからな。なんかやっぱり俺だけ損してる気がする」
「私もどうも割り切れない気分だ」
サガの中のサガに、嫉妬している。それが分かったから、は少し、笑ってしまった。
「何がおかしいんだ」
「こっち来いよ」
片腕ずつを引かれて、抗う間もなくダブルキングサイズのベッドへ逆戻りさせられる。
「ご飯、冷めちゃうってば」
「朝食よりをまずいただくとしよう」
「賛成。後であっため直して食おう。今はこっちが先な」
「こんなときだけ意見が合うんだから〜」
双子の、同じ程度生キズを負った体に挟まれて、の声は甘くとろけてゆく。
サガに長いキスをされ、カノンに感じる体を撫でられて。
「今朝は私が先だな」
「何だよ、ゆうべだって、兄貴に順番譲ってやっただろ!」
「最後はおまえだったから、やっぱり今日は私からじゃないか」
「そんなことでケンカなんかしないでよ〜」
の方から体に触れ、キスもしてあげる。サガとカノンに、同じくらいずつ。
もつれてからみ合えば、もうどれが誰の体か分からなくなってくる。みんな一緒になるみたいに。
「愛してるわ」
「俺も」
「私も愛しているよ、」
囁きもキスも、愛の行為も。二倍を、半分こ。
この方が、ずっとずっと、幸せ。
・あとがき・
リクエストにも多かった、サガとカノンのダブルキャラドリーム。
遊びのような関係とか、ちょっとヒドイ関係とかのドリームが続いたので、明るく甘いものを書きたくなりました。
「トリプルプロポーズ」の続編として、しばらく前から考えていた話なんですけどね。
黒サガは最初は出さない予定だったけれど、勝手に出てきました。おかげでサガもカノンもキズだらけだよー。
必殺技を使わずにケンカしたのは、二人の分別というか暗黙のルールというか。兄弟ゲンカでアナザーディメンションとかギャラクシアンエクスプロージョンとかゴールデントライアングルとか使っていたら、双児宮大破しちゃうよ。シオン教皇から大目玉だ。自然に言葉遣いが決まってしまう。サガはきちんとしていて、カノンはちょっと乱暴に。一人称も「私」と「俺」にしてみました。
そっくりだけれど違っていて、どちらの夫のことも、ちゃんはそれぞれ大好きなんですね。実は黒サガにもそれなりに惹かれているのかも知れない。重婚ネタというのは好きなんです。代表的なキャラは、HEROで書いていた颯華さんですね。乱世と忍(この二人も兄弟)の妻。二倍オイシイではないですか。
三人の関係を深く考えてはいけない! あくまでフィクションです!(笑)
楽しければいいのよ。幸せならば。
しかし三人で巨大なベッドにオヤスミナサイ・・・なーんて素敵なドリーム!! いやいいですね。愛は増えるものだそうです。サイファって漫画にそう書いてあった。
例えば家族が増えれば、その分増えるんでしょう。
私は自分の娘がかわいくてしょうがないけれど、今年また赤ちゃんが生まれれば、同じくらいかわいいと思えるんじゃないかな。
この間まで、「上の子がかわいすぎるから、生まれてきた子をかわいいと思えなかったらどうしよう」と不安だったんだけど、これを書いていたらそんな気になってきました。
多分そういうこと。100のお題の50番目だから「半分こ。」なんだろうなぁ。
77が「ラッキー」なのと同じように。
H16.3.2
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