世界の何処かで



 さしあたっての潜伏場所と定めたアパートで、二人膝を突き合わせている。
「残念だけど・・・、傷はこのまま残ってしまうわね」
「仕方ねえよ」
 確かに、あの状況で、命が助かっただけ良かったと思うべきだろう。
 はメロの顔と体に丁寧に包帯を巻いてやると、薬やガーゼを片付け始めた。大ぶりの黒鞄には、家庭の救急箱レベルでは見られないような器具なども揃っている。
と一緒で良かったよ。医者に通うわけにもいかねえもんな」
 早速チョコレートを出してきてかじり出したメロに、苦笑いをこぼす。
 はワイミーズハウスで、医療の技術を身に付けていた。いつかLの役に立ちたいと、それだけを支えに頑張ってきたのだが。
 あの日、雨の夜。
 ニアと共にロジャーさんに呼ばれたことは知っていたが、その後明らかに様子がおかしいメロに、Lの死を聞かされた。
 突然の報せを、受け入れられないままメロと施設を飛び出して。
 それ以降、常にメロのそばにいた。マフィアの中だろうと臆せず、メロのやり方に一切口をさしはさむこともなく。
 そして・・・、今、ここにいるのは、と傷ついたメロの、ふたりだけ。マフィアたちもノートも失った。自身はメロの配慮で危険の及ぶ場所にはいなかったので、無傷だが、メロに残った火傷に痛みを感じずにはいられない。
「ねえメロ・・・、もう、やめない?」
「・・・」
 メロはちらっと目を上げたが、くだらん、といわんばかりに、チョコをかじり続ける。
「怖いなら出ていけよ。俺は一人でもやる」
「これ以上メロが傷つくのを見るのは・・・」
 皆まで言わせない。チョコを投げ捨てる勢いで立ち上がり、の肩を掴んだ。
「Lは殺されたんだぞ! キラに!」
「それは分かってるけど・・・」
「分かってねえよは!」
 胸に切り込んでくる強さに、息をつめる。メロには悟られていた・・・。
「・・・そう、ね・・・」
 ズルズルとその場にへたりこむ。メロも我に返ると力を加減し、共に座り込んだ。
「正直、いまだに現実味がないのよ。Lが死んでしまったなんて、ね」
 幼女のようにぺたんと座って、あらぬ方向に目線を走らせている。
「今でも何処かで・・・この世界の何処かで、LはLとして走り回っているような・・・そんな感じがして」
 憧れだった、目標だった。自分だけではなく、ワイミーズで一緒だった仲間たち皆の。
「なぁ」
 目の焦点を合わせて欲しくて、軽く揺さぶる。顔を見てくれたら、もう離さない。
「俺に、抱かれろよ」
「・・・」
 知ってはいた。否、気付かないはずはない。男としての目で、見られていることを。
 今まで一線を越えなかったのは、ハッキリしないの態度を、メロがあえてそっとしておいてくれていたから。それをやめてしまった今、メロの剥き出しの想いが肌にちりちり痛い。
 それでもは逃げなかった。逃げられなかった。
「・・・メロ」
 顔の、傷を免れた右半分を見つめる。
「あのとき、ニアじゃなくて俺を選んでくれたから・・・ちょっとはうぬぼれていいのかなって・・・」
 言い訳じみた調子が、施設にいたころに戻ったみたいで、は微笑んだ。本当は泣きたい気分だった。
「・・・いいよ」
 メロが望むなら、そうしても構わない。
 いつもそばにいてくれる幼馴染を、愛したかった。
 何より・・・、世界の何処かで、なんて幻想から、早く自由になりたかった。

 初めて触れ合う体はあたたかで、軽く汗ばむとしっとり吸い付いてくる。心地よくて、メロは何度も口づけた。
 はメロの体の包帯を、眺めていた。の器用な手指できっちりと隙なく巻かれたそれは、痛々しくも生きている証のように視界いっぱいに広がってくる。
 今、そばにいるのは、この人。
 愛してくれるのは・・・。
「メロ・・・」
 名を呼び、しがみついた。

「おまえ、Lと何かあったのか?」
「何かって?」
 下着を着けながら応える。背中にメロの苛立ちを感じてはいた。
「とぼけんなよ。・・・初めてじゃなかったろ」
「どうして初めてじゃないとLだって決め付けるのよ」
「や、やっぱり初めてじゃなかったのか・・・」
 少なからずショックだった。施設を出てからはいつも一緒だったのに、いつの間に。まさかマフィアたちに襲われたわけではないだろう。とすると施設の中で・・・やっぱりLと・・・?
 ぐるぐる考えて上着を着ることも忘れてしまっているメロを、肩越しにちらり見やった。
「何よ、聞きたいの?」
「別に。昔のことなんてどうでもいい」
 言い捨てる調子は、どちらかといえば自身に向けているかのようだった。
 鏡に向かい髪を整えているを眺めながら、板チョコをかじり出す。
 肌に触れたからといって、心まで手に入ったとは思わない。事実、体の満足とは裏腹に、やるせなさが残っていた。
 でも焦らない。
 ずっと見ていた、想っていた。もう何年も。
 何より自身が、少しずつでも受け入れてくれようとしていることが、嬉しかった。
 例え、Lの大きすぎる存在が、の心から離れないのだとしても。
 今も世界の何処かで、を縛り付けているのだとしても・・・。

「よし、次はSPKへの接触だ」
 早速、パソコンを立ち上げ、キラに辿り着くための方策を講じ始める。そこにいささかの迷いもないのを見て取り、もまた、画面に向かった。
「じゃあ私は昔の仲間たちに連絡取ってみるわ。協力してくれる人がいた方がいいでしょ」
「協力なんてしてくれる奴いるのかよ。それにニアの手が回ってれば連絡もなかなか難しいぜ」
 ディスプレイの光を受け、真剣に検索している横顔を見つめてしまう。その唇に、さっきキスをしたんだ・・・。
「マットなら大丈夫だと思うけど」
「マットか・・・奴なら確かに・・・。じゃあそっちは頼んだぞ
「オッケー」
 交わす瞳は今までと変わりなく、少しくらいの甘さを期待したメロには物足りない。
 だけど何でもないふうに、コートをひっかけ外に出た。
(・・・メロ)
 歩いてゆく姿を窓から見送り、は深く息を吐く。
「・・・L」
 失えない面影が、寒空いっぱいに広がっていた。



                                                             END



       ・あとがき・

星矢のアイオリアで書いた「歩き続ける」にそっくりになってしまった。ヒロインの心にいつもある存在と、そうと知りながらずっと思いをかけ続ける男。まぁセルフパクリということで。
Lとちゃんとの間に何かあったのか、何があったのか、そこは想像にお任せです。
ちょっと切ない風味ですが、これからの希望がありますからね。

Lが死んだ、ということをドリームでハッキリ書くのはこれが初めてです。やっぱり、辛いものですね。
Lが亡くなる瞬間やら、その後悲しむヒロインやら、そういうドリームはきっとこれからも書かないと思う。
私もちゃんと同じで、世界の何処かでLには生きていてほしいなぁと、ずっと思っているので。

メロは顔にあんなキズが残ってしまったけど、体の方はどうだったのかな?
普通に病院に通うとは考えられなかったので、ちゃんを医療の達人(?)という設定にしてみました。






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