CD/MD?
彼氏とデートの週末、一週間の疲れなんて何のそので、迎えの車に乗り込む。
「CD? MD?」
CDもMDも、前回のデートから入れっぱなしのはず。
一輝はどちらでもいい、と答えたので、あたしは少し迷ってから、MDをかけた。
大好きな「」のイントロが始まる。窓の外を眺めれば、流れる景色にワクワクする。
ドライブにはぴったりの曲。それにいい天気!
「MDって便利よね。昔はカセットテープに録音とかダビングとかしてたけど、テープが伸びて変な音になったりしてね」
あたしは気ままにお喋りを続けた。
「小学校くらいのときは、レコードだったし。今はCDにMD、さま変わりしたものね」
一輝はこういう、昔のものごとについての話に、全然のってくれない。
同年代だから話も合うハズだと思って、昔はやった歌やマンガの話をするんだけれど、そういうときに限ってすっかり黙ってしまう・・・今みたいに。
関心がないとかイヤだとかというより、まるっきりその時代について知らないみたいな反応に、最初は面食らった。
後から、孤児院にいたという話を聞いて、あたしには孤児院というのがどんなものか想像がつかないけれど、きっと辛い思いもしたんだろう、だからあんまり語りたがらないんだろう、と理解した。
といって、いかにも腫れ物にさわるような態度でもわざとらしいから、喋りたいときは喋って、好きにしているけれど。
そう、普通にできて楽だから、そしてきっと一輝も同じように思ってくれているから。あたしたち、恋人同士としてうまくいっている。
あたしは、運転している一輝の横顔を見ていた。
しんとブランクがあって、次の曲がかかる。
こうしているのが、好き。
目的地に着く前に、パーキングエリアで休憩を取った。
一輝は自分の車の周りをぶらぶらしながら煙草を吸い始めたので、あたしは居心地のいい車の中で待つことにする。
MDからCDに替えて、別のアーティストを流した。
一輝は、10年やもっと昔のことを、ほとんど聞かせてくれない。あたしはあの額のキズについてさえ、詳しいことを知らなかった。
何かを抱えてはいるんだろう。痛みや傷、それだけではなく、大切な面影も。
彼の過去に興味がないとは言わないけれど、話したくないならあえて聞かなくてもいいや。
だって、あたしでも誰でも、色んなことがあって、ここにこうしている。
さまざまな出来事、感情、人との関係・・・そういったものを経験して、あたしたちみんな、大人になった。
それが一輝をこんなイイ男にしたんだろうし、あたしは・・・イイ女かどうか、知らないけど。まあとにかく、こうして彼と出会って、幸せなんだから。
「行くか」
ドアを開けて、一輝が乗り込んでくる。煙草のにおいをまとって。
「うん、行こ」
あたしは笑顔で答えた。
一輝が車を発進させる。
再び風景が流れ出し、CDの曲があたしを心地よくした。
「思ったより遅くなったな。今日はこの辺に泊まっていこう」
沈む夕日をさしながら車を走らせていた一輝が、何気もなくそう言った。
「えーいいの、無断外泊?」
茶化しながら、嬉しくないわけはない。
「瞬にはちゃんと電話を入れておく」
「あ、ハイハイ」
まったく、いつだって瞬ちゃん瞬ちゃんなのよね。このブラコンさえなければ、男前度パーフェクトなんだけど。
「たまには、こういうのもいいだろ」
一輝はハンドルを切り、ホテルに車を入れた。
「・・・」
こういうとき、一輝はあたしの名前を呼んでくれる。いつもよりたくさん。
「一輝」
感じながら、あたしも呼ぶ。
こうしてきつく抱き合っているのも好き。服なんて全部脱いでしまって、じかに肌をくっつけるのが。
胸のドキドキも、脈拍も体温も、こんなに近いもの。
「」
いざ、ひとつになろうというとき。
あたしは決まって、怖いと感じる。
なんというかそれは、本能的な恐怖というか。だから、理由はないんだけど。
実際、気持ちよさとスレスレだから、すぐ消えてなくなっちゃうんだけど。
分かっているのは、一輝の眼にゾクゾクするということ。
きっとそれこそ、一輝の本能なんだろう。
命を取られそうな気になってくる。それで、取られてもいいかなって思いもする。
こんなあたしも、一輝も、正常じゃない。
このときだけの、でも、本当のこと。
「一輝・・・」
汗ばんだ額の、その傷に触れてみる。
それぞれの子供時代を過ごし、それぞれの人生を経て。そうやって、あたしたちは出会った。
「・・・好き」
抱きしめることで応えてくれる、その腕の頼もしさ。
あたしは思った。今まで故意に避けようとしていた事柄。
これから先は、この人と一緒に過ごしていきたい、ということ。
それは彼が最もいやがる「束縛」に繋がる。自制しようとしたとき、今までよりも強く抱きしめられた。
「・・・」
規則正しい心音が、速い。
「俺はずっと一人がいいと思っていたが、おまえといると、家庭を持てたら・・・と思う」
え・・・えっ!?
「それって・・・」
顔を上げたら、目が合った。雄々しく、意志の強い。
「結婚を、考えてくれないか」
あたしは何を言ったろう。どうしたろう。
舞い上がってしまって、覚えていない。
ただ、幸福の中で、あたしたちは幾度となく愛し合った。
「CD? MD?」
「の好きな方でいいよ」
一輝の答えはいつもの通り。あたしは黙って、音楽をかける。
車はあたしたちの町に向かって、走り出した。
過去はもういい。それより、未来を作っていけるなら。
家族になって、一緒に暮らそう。
・あとがき・
読みたいキャラ第四位になった一輝ドリームです。
一輝は青銅五人の中で一番好きですねー。男くささが良いです。リアルタイムの一輝を書いてみました。私と同じくらい。キムタクくらいかな(笑)。
シブくてカッコいい大人の男になっているに違いないけれど、15才時とそんなに変わらないような気もする。
大人を強調して、車と煙草。
今はもう聖闘士じゃなくて、ちゃんにも過去の戦いのことなど一切話していない・・・という設定です。
ま、誰でも大人になるまでに色んなことがあるのさ、ということ。一輝は普通じゃないことがありすぎるけど。
プロポーズは予定になかったのですが、流れでそうなりました。肉親は弟の瞬しかいない一輝だから、温かな家庭を築いていってほしいですね、ちゃんと。
お、そうしたら瞬は義弟になるではないですか。素敵っ!別にね、15才のドリームでも普通に書けると思うのですよ。声優さんのインタビューで堀さんが「15才という年齢は意識せず、大人の男として演じた」とおっしゃっていたのを読んで私も吹っ切りましたね。
一輝に限っては大人と同じように扱うよ!果たしてドライブの目的地ってどこだったんだろう。
二人ともちゃんと働いていて、金銭的にも余裕がある感じね。
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