カレンダー
シオンは、親友の部屋でお茶菓子などご馳走になっていた。
外見はともかく、童虎とは261歳同士、ずずっと茶をすすりながらゆったり語る世間話にも、若輩の者には持ちえない深みが加えられ、なんとも楽しいひとときだ。
「今年のカレンダーは、やけに大きいではないか」
そんな会話の継ぎ目に、ふと壁に目をとめたシオンは、何気なく口にした。そういえば、天秤宮の居住区に入るのは、今年になってからは初である。
年のカレンダーは、中国風にまとめられた童虎の私室で、浮いているといっていいほど目立って大きなものだった。別に水着姿のアイドルが印刷されているわけではなく、日付だけが並んだシンプルなものだが、去年のちんまりとしたカレンダーを見慣れたシオンには奇異にすら思える。
「カレンダーなどどうでもよかろう」
そっけない返事に、逆に裏を感じる。付き合いが長いだけに(まあブランクも長いが)、すぐに気付いてしまうのだ。
大きなカレンダーには、何か理由があるのだろう。話題を変えようとしている童虎には乗らず、どう問い詰めてやろうかとニヤニヤしていると、ちょうど物音がした。ドアが開き、可愛い顔がぴょこっと覗く。
「あっ、教皇、いらしてたんですか」
「おお、プライベートではシオンと呼んでいいと言っているではないか。それに、敬語もいらぬぞ」
「、よう来たの。シオンはもう帰るそうじゃ」
自分より先に、しかもやけに親しげに声をかけるシオンを、童虎は容赦なく押しやった。そうしておいて、には最上の笑顔を向ける。
「茶を入れよう。うまい菓子もあるぞ」
「私が持ってきた菓子なのだがな」
こぼしながらも、シオンは素直に立ち上がる。童虎の恋人が来たからには、退散するほかないだろう。
「あ、もっとゆっくりして行かれたら・・・」
「ふん、お前たちの邪魔をする気はさらさらない。当てつけられるのもゴメンだからな」
言葉の割には笑顔で、天蠍宮側に足を向けかけ、ふと思いついたシオンはきびすを返した。長い法衣の裾が、床を擦る。
「、ちと耳を貸せ」
「はっはい」
小首をかしげてうんと背伸びしようとする姿に微笑しつつ、身を屈め口を近付ける。の耳元に、何事かを囁いた。
最後に、童虎をちらりと見てやる。表面上は平静にしているが、異常接近にやきもきしているのがよく分かって、愉快な気持ちになった。シオンは不敵な笑みを浮かべると、友が何か言う前にさっと立ち去った。短い挨拶だけを残して。
「なんじゃ、シオンの奴」
憮然と腕組みをしてから、いかにも子供っぽい嫉妬が少し恥ずかしくなる童虎だった。
「童虎、カレンダー」
遠慮がちな声に振り向くと、が、件(くだん)のカレンダーを目で示している。
「あのカレンダー、何かあるの?」
シオンはそれを吹き込んで行ったのかと悟り、鼻の頭をかく。
「ああ・・・あれはのう」
「本当に大きなカレンダーよね」
好奇心と期待で満ちた瞳の前で、童虎は観念した。壁に歩み寄り、カレンダーに手のひらで触れる。
も、じっと彼の手を見ていた。1月のカレンダーの、今日の日付を探し、くっきり書かれた数字の下を指でなぞる。そこは、メモ欄として使えるように、薄く線が引かれてあるのだった。
「ここに、予定を書き込むために・・・」
そのままで、振り返る。の視線にぶつかり、笑ってみせた。少し照れくさそうに。
「、おぬしとの約束や記念日や・・・そんなのでこのカレンダーが埋まればいいと、そう思って買ったのじゃ。・・・笑うかのう?」
「そんな、笑うなんて。だってほら、私も、おんなじ」
は頬を紅潮させ、小さなバッグをさぐる。真新しい手帳が出てきた。
「私、去年まではスケジュール帳なんて使わなかったんだけど、今年はたくさん書こうと思って。デートの予定とか、日記とか・・・」
去年、初めて出会って、急速に惹かれあった。
恋人として初めて迎える新年だから。まるまる一年、一緒に過ごしたいから。
同じ思いでいたことが嬉しくて、童虎はを抱きしめる。
「いっぱい予定を作ろうね、童虎」
「そうじゃな」
買い物に映画、暖かくなったらもちろん外にも出かけたい。旅行なんてプランも出来たらいい。
考えるだけで楽しくなる、その心のままで、軽いキスをした。腕を引かれてねだられて、もっとキスをする。何度もキスをする。
「今年一年、よろしく」
「こちらこそ」
瞳を合わせて笑い合うと、同時に、壁に目をやった。まだ白いままの年版カレンダーを眺める。寄り添い合い、期待に心を弾ませながら。
「早速、書き込むべき事柄を決めようか」
「そうね」
童虎と、二人一緒なら、きっと楽しいことばかりが増えていく。
・あとがき・
一年以上前に考えていたネタなのですが(笑)。
時期モノは、その時期を逃してしまうと書けないタチなので、眠らせていたのです。
そもそもは昔のスピードの歌で「新しい手帳にもあなたとの予定がたくさん書けますように」とかそういう意味の歌詞(ちょっと正確には覚えていないんですが)があったところから、「カレンダー」というお題でこんなネタが浮かびました。どうしてキャラとして童虎が浮かんだのかは忘れたけど・・・長く生きているところからの連想?
でも、童虎は、年を重ねているということを必要以上に気にしない感じだといいなーと思っています。若者ぶるわけではないけれど、「じーさんだから」というセーブを自分でしない。
異常接近のシオンに嫉妬してしまい、それを恥ずかしく思っているけれど、それはまあ、あまりにも子供っぽかったかな、と自分で感じたわけですね。
ちゃんは、ちょっとおとなしめの感じで書いてみました。まだ付き合いが浅くて、ちょっと遠慮があるのかも。童虎の話なのでシオンもからめてみました。童虎とシオンって、カミュとミロ並みに好きな二人です。男同士の親友っていいな。
ちなみに私はスケジュール帳を使わない人です。何かのオマケでもらっても、ほとんど白紙だよ。
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