歩き続ける
は、射手座の黄金聖闘士、アイオロスに師事していた。
アイオロスの弟アイオリアとは同い年だったこともあり、ケンカに似たじゃれ合いを通じ、仲良くなっていた。
聖闘士になるための訓練はとても厳しかったけれど、アイオロスを心から尊敬しているにとって、それは苦痛ではなかったのだ。
満ち足りていて、幸せだった。
あの夜までは−。
一夜明けたら、アイオリアは裏切り者の弟と・・・そしては聖域に反逆した者の弟子と。
そう、呼ばれるようになっていた。
何が起きたのか分からない。
アイオロスは先ごろ降臨されたアテナを殺害しようとし、射手座の聖衣を持って聖域から脱走しようとした。それを山羊座のシュラが追撃したのだと。ただそれだけを伝えられて。
弟として、弟子として、何か知っていることはないか−。アイオリアとは、厳しく責め立てられた。
アイオリアが一緒でなかったら、まだ幼いの精神はどうにかなっていたかも知れない。
「兄さんは・・・、本当にアテナをころそうとなんてしたんだろうか」
「そんなはずない!」
即座に強く否定する。
二人は一つのベッドにもぐり込み、毎日の眠れない夜をどうにか越えていた。
「先生が・・・アイオロスがうらぎるなんて、そんなことありえない。ぜったい・・・」
仮面の下で、どんな表情をしているのか。アイオリアには容易に想像が出来た。
「そうでしょ、アイオリア」
「・・・うん」
事実も感情も、全てが混沌としている。
曖昧なままで、アイオリアは頷いた。
それから7年の歳月が過ぎ−。
聖域に留まり、人徳厚い別の師についたは、いよいよ明日、聖衣をかけた戦いに挑むこととなった。
「なら大丈夫。ドクラテスなんかに負けはしないさ」
アイオリアは笑って言う。
二人はこうしてちょくちょく会っていた。夜の闘技場を見下ろすように座り、星を見上げては、色々なことを話した。7年の間、ずっと。
「絶対に帆座の聖闘士になってみせるわ。アイオロスのためにも」
「・・・」
仮面に隠された横顔を見、また正面に顔を向けると、アイオリアは小さなため息の後で思い切って口にした。
「もう・・・、兄さんにとらわれなくてもいいんじゃないか」
ずっと、思っていたことを。
「・・・どうして・・・」
膝に置いたの両手が、震えている。
「どうしてそんなこと言うの」
「君が兄さんの弟子だったのは、たった一年くらいのことだ」
実際、聖域の中では、そのことを忘れている者、知らない者が大多数だ。
なのに自身が折に触れ自分はアイオロスの弟子だと言い放つから、一部の者にはよく思われていなかった。
「こんな思いは、俺だけで十分だから」
実の弟であり、外見がアイオロスにどんどん似てきたアイオリアに対しては、依然風当たりが強い。それは仕方がないし、獅子座の黄金聖闘士としてアテナと教皇によく仕えることで、兄の汚名を雪ぐしかないと思っている。
だけれど、わずかの間弟子だったというだけで、こんなにもが兄にこだわる必要はない。アイオリアには、が裏切り者に師事していたという枷を自らに科しているように見えていた。
そこから解放してあげたかった。
自分だけの道を、歩き続けて欲しかった。
「期間なんて関係ない。私はアイオロスを誰よりも尊敬していた・・・今でもしているわ」
苛立ちの含まれた声に、自分の願いは伝わらないのだと知る。同時に、亡き兄に向けられたそれほどまでに強い想いが、羨ましく、もっと言えば妬ましかった。
「、そんなに兄さんのことを・・・俺は・・・」
「アイオリア!」
紡ぎかけられた言葉を強く遮って、は勢い良く立ち上がった。
「明日、絶対勝つから。・・・そしたら私、あなたに言いたいことがあるの」
不意に優しくなった言葉の調子に、そっと見上げる。仮面が月光を冷たくはじくさまは、ドキッとするほど美しかった。
「・・・ああ。見てるから、頑張れよ」
本当は抱きしめてやりたかった。
だけれどそんな平凡な言葉しかかけることは出来なくて。
手を振り闘技場を後にするを、ただ見送っていた。
(アイオリア・・・)
夜道を歩きながら、ひとり仮面の下では笑っていた。
アイオリアの分かりやすい嫉妬が、嬉しかった。
(よーし明日頑張るぞ!)
そのとき。
道端から、突然数人の男たちが飛び出して来、あっという間には押さえつけられた。力ずくで、物陰に引きずり込まれる。
「な・・・っ!」
不意打ちの上、この人数相手では抵抗も無意味だ。それでもは闇を透かして相手の姿を見回した。
「あんたたち・・・」
知った顔も見える。はハッと息をのんだ。
明日の相手、ドクラテスの一味ではないか。
一瞬で全てを悟り、唇を噛む。
「試合前に闇討ち? 随分自信がないのね」
「うるせえ。おまえみたいな女はドクラテス様と戦う資格もねぇんだよ!!」
鳩尾を殴られ、声を失う。
大勢で容赦なく殴りつけ、ぐったりとなったところで、男たちはを地面に引きずり倒した。
「殺してもいいが、もったいない体をしてる。楽しませてもらうとするか」
「足腰立たなくしてやれば、それでいいんだからな」
わざと下品に笑い合って、の体に手をかける。
服を破られる音がリアルで、遠くなりかけていた意識を引き戻した。
「・・・っ・・・」
叫ぶこともできない。体が鉛のようだ。
意識はこんなにはっきりしているのに−!
(やだ・・・!)
今まで感じたことのない恐怖が、黒く心を覆い尽くす。
痛みには慣れている。言葉や態度による中傷なんて平気だ。
だけどこれは・・・これだけは。
聖闘士になるために捨てたはずの『女』が、危険を叫んでいる。本能的な心の動きそれ自体に、は恐れおののいた。
(なによ・・・こんなの。これくらい・・・何をされたって、私は負けないんだから!)
そんな強がりも、空すべりするだけ。それでも、打ち消すように強く繰り返すしかなかった。
(負けないんだから・・・)
強く目をつぶる。そのまぶたに浮かんだ顔が、兄なのか弟なのか分からなかった。
「朝までやりゃあ、もうボロボロだろ」
「身の程を思い知るんだな、」
乱暴に脚を開かされ、心臓が凍りつく。いっそ意識をなくしてしまいたかった。
(アイ・・・オ・・・)
「・・・うわっ!?」
「!?」
唐突に、身体への圧迫感が消えた。
にのしかかっていた男が、背中に鋭い攻撃を受けて後ろに吹っ飛んだのだ。
その傷口は鋭利に切り裂かれ、血が噴き出している。
「だっ誰だ」
ならず者たちは邪魔が入ったことを悟り、辺りを見回す。
「・・・声をかけたが、聞こえなかったようなのでな」
そこに立っていたのは、夜闇に溶け込みそうな黒髪、黒いマントを羽織った男だった。
「アテナのおられる聖域内で乱暴な振る舞いは許さん。即座に立ち去らんと、全員切り刻んでくれるぞ」
すっ、と、手刀を振りかざす。その姿に、男たちは腰が引けた。
「カ・・・カプリコーンの、シュラ・・・様」
「黄金聖闘士・・・」
最高位の黄金聖闘士に、自分たちふぜいが何人束になろうと敵うわけはない。
「ひいっ・・・」
「おっお許しを・・・」
先を争うように逃げ出す。あっという間に、その場を静寂が包んだ。
シュラは物言わず自分のマントを取り、力なく横たわっている少女にかけてやろうとする。
「・・・触らないで!」
突然、弾かれるように仮面の娘は体を反転させ、その手を跳ね除けた。背中で力一杯拒んでいる。
山羊座のシュラのことは、アイオロスの仇のように思っていた。そのシュラに助けられるなんて。こんな惨めな姿を見られるなんて。
あのままあいつらに犯された方がまだしもマシだったかも知れない!
一方、シュラはのことを知らなかった。こんな態度も、羞恥のためだろうとしか思わなかった。
「こんなところにいては危険だ。送っていく」
「放っといて! あっちに行って! あんたの顔なんか見たくない。アイオロスを殺したあんたなんかの!!」
「−!?」
思ってもみないところで思ってもみないことを言われ、さすがのシュラもたじろいだ。
は黄金聖闘士に対してひどく不遜な言葉を吐いてしまったことを自覚していたが、それを咎められるならこの場で殺されても構わないような気持ちになっていた。
「・・・俺は嫌われているようだな」
ぽつりとこぼすと、シュラは再びマントを被せてやり、さっと踵を返した。
「・・・!」
聞きなれた、最も安心出来る声を聞いて、地面に丸くなったままのは深く息をついた。
アイオリアはに駆け寄り、黒いマントごと膝に抱き上げる。
「大丈夫か。すまん、こんなことに・・・」
「アイオリアのせいじゃないよ・・・」
楽に声を出せることに軽く驚く。そういえば体の痛みも取れてきた。
温かな小宇宙に包まれているのを感じて、にっこりする。アイオリアが黄金の小宇宙で癒してくれているのだ。
アイオリアに知らせをくれたのは、シュラだった。アイオリアとシュラの間もずっとぎくしゃくしていたが、場合が場合なので、教えてくれた礼を言い、すぐに駆け付けたのだった。
「、まさか・・・」
マントがめくれ、埃だらけ、血だらけの身体がのぞけている。無残に破られた服とそこに垣間見える素肌を、アイオリアは直視出来なかった。
「・・・ひどいことを・・・」
「違うアイオリア、私、何もされてない!」
「いいから、何も言わないで」
優しく抱き上げ、の家まで連れてゆく。
ベッドに横たえ、微妙に目を逸らしながら話し掛けた。
「体のケガはほとんど大丈夫だと思うけど・・・、その・・・、病院に行った方がいいのかな・・・」
「だから何もされてないって!!」
「え・・・あ・・・」
アイオリアにはそれが本当なのか、それとも言えなくて嘘をついているのか、判別がつかなかった。
ただ自分には触れられないようなデリケートな問題だし、がそう言うのなら、頷くしかない。
「うん・・・」
「アイオリア・・・」
疑われている。あんな薄汚い連中に、何かされたと思われている。
には耐えがたかった。
「じゃあ、あなたが確かめて」
「」
ベッドから半身起き上がり、かけてもらっていた毛布を剥ぐ。未だぼろのように破れた服をまとっていたが、それも少し開き、胸元をあらわにした。
身の潔白を立証したいのも確かだけれど、本当は、慰めて欲しかった。アイオリアに抱かれれば、汚らわしい思いがぬぐい去られるような気がしていた。
自分の精神がこんなにも脆いものとは思わなかったけれど、それも含め全てを彼に委ねたかった。
「よせ」
毛布を引き上げようとするがが暴れるので、とっさに胸に抱き寄せる。
白くて綺麗な肌が、脳裏に焼き付いて消えない。どうにかなってしまいそうな気持ちに、理性を総動員してブレーキをかけた。
腕の中で、が身じろぎしている。その動作から何をしているのか悟り、アイオリアはギョッとした。
「・・・あたしを、見てよ」
は仮面を外したのだ。
アイオリアは冷や汗いっぱいで、どうにも出来なくて、目線を上に向け続ける。
女性が仮面を外す。その意味はもちろん知っている。が自分を殺そうとしているとは思えない。ということはつまり。いやしかしこんなときに。
「いやあの、分かった、君がその辺の雑兵やらの思うままになるわけがない。分かったから、今日は休もう」
「・・・見てくれないのね」
硬い声に、ちぎれんばかりに首を左右に振る。
「違う、そうじゃない。君を愛せないとかそういうんじゃない、断じて! だけどほら、こういうドサクサでそういうのって、何ていうか、良くないじゃないか」
自分でも何を言っているのか分からない。アイオリアはひどく動転していた。
「相変わらず、生真面目だね」
すっと力を抜き、広い胸に頬をつける。
アイオリアの取り乱しようが、逆にを落ち着かせた。
「困らせて、ごめん」
手に持っていた仮面を、元のように装着する。アイオリアがほっとしているのが、手にとるように分かる。
「でも、気の迷いとかじゃないから」
告白も同然の言葉に、別の意味で動揺しつつ、アイオリアは腕に力を込めた。
「そういうのは、男の方から言わせてくれ」
「・・・ん」
しばしそのまま動かずに、互いを感じていた。こんなに身近で心地よい・・・小宇宙も体温も、脈拍すらも。
やがて、の方からそっと離れる。
「シャワーを浴びて、もう寝る」
「ああ。試合は延期してもらえばいい」
「いいよ大丈夫。アイオリアのおかげでもう何ともないし、延期なんてシャクだもの」
毛布を胸の上まで引き上げ、見上げる。
「何より私は、帆座の聖衣を早く欲しい」
−アイオロスのために。
口に出さずとも、は強く言っている。
アイオリアには、やっぱり少し口惜しい。
しかしおくびにも出さず、仮面の顔を優しく見下ろした。
「アテナのご加護が、のもとにあらんことを」
決まり文句に、誠実で真摯な想いを込めて。
「ありがとう」
ありったけの、感謝と愛を込めて。
次の日、教皇の御前で、帆座の聖闘士を決める最後の試合が行われた。
多くの見物人に混じって、アイオリアもを見守っている。
「ドクラテス、よくも汚い手を使ってくれたわね。あんたなんか聖闘士になれっこないわ!」
「ヘッ、何のことだ。言いがかりをつけても逃げられないんだぜ」
体の異様にでかいドクラテスは、小さな娘を見下ろしてせせら笑う。奴の取り巻き・・・昨夜襲ってきた奴らもいる・・・も、一緒になって嘲笑した。
「私語は慎め! 始めるぞ!」
記録員の言葉に口をつぐむ。実力で取ればいいだけだ。
闘技場がどよめく。勝負が決まった。
「勝者、!」
高らかに名を呼ばれ、片腕をぐっと天に突き上げる。
並外れたパワーを持つドクラテスには苦戦を強いられたが、結局はの敏捷性と粘り強さが勝った。
(良かったな、)
アイオリアは惜しみない拍手を送る。彼女の勝利を信じて疑ってはいなかったけれど、実際にその場面を見れば、感動もひとしおだ。
(兄さん・・・は頑張ったよ)
兄への報告も、自然な心の働きだった。
「は帆座ヴェラの聖闘士として認められた。よって聖闘士の証である聖衣を与える」
輝く聖衣の箱を前に、少しずつ実感が湧いてきた。
聖闘士になれた。ずっと目指していたものに、手が届いたのだ。
「おめでとう。今日から帆座ヴェラのだな」
「ありがとう。アイオリアのお蔭よ」
聖衣箱を部屋の中の一番いい場所に据え置いて、は上機嫌だった。
「こんなのしか用意できなくてゴメン」
と差し出されたワインを、はしゃいで受け取る。
「最高よ。嬉しい!!」
戸棚からグラスを三つ取り出す。ワイングラスなんてしゃれたものはない。不揃いのタンブラーに、それぞれ並々と注いだ。
「ワインってそんなに注ぐもんじゃないだろ」
「いいから。お祝いお祝い!」
一つはアイオリアに。一つは自分が持つ。もう一つのグラスは、窓際にそっと置いた。
「乾杯!」
カン、カン。グラスを合わせ、アイオリアが口をつけるのを見守る。
「うまいよ。もどうぞ」
「うん」
後ろを向いてちょっと仮面をずらすと、ぐいと思い切りあおった。
「おいしー!」
こういうのを飲むのは初めてだけど、何ておいしい。高揚した気分のせいだ、今なら水を飲んでもおいしいことだろう。
「一気に飲むと危険だぞ」
もう遅い。アイオリアが見たのは空になったコップだった。
「」
どん、と飛び込んできた身体を、受け止める。
「酔ったのか?」
「・・・ちょっとね。でも平気。ふふふ・・・」
笑いが止められないらしい。やっぱり酔っ払ってしまったのか。
「本当に平気。ただ嬉しいだけ」
くすくすくす・・・くすくすくす。
体を密着させてくるから、自分も少しアルコールが入っているアイオリアは、突き上げてくる直情をコントロールできなくなった。
「」
仮面に指で触れる。金属的な感触を確かめるようになぞった。
「・・・ずっと好きだった」
嫌がるそぶりもないことを確認してから、仮面を静かに外す。
初めて素顔を見せるのが恥ずかしいのだろう、は一度下を向いたが、ゆっくりと、顔を上げてくれた。
「・・・こんな顔だよあたし。嫌いにならない?」
の素顔なんて、今まで想像も出来なかった。実際に見たそれは、年齢よりも幼いな、というのが第一印象だ。ワインによって赤くなったほっぺのせいかも知れない。
特別な美人とは言えないだろうが、愛嬌があって可愛くて、アイオリアは一目で気に入った。
「嫌いになんかなるものか。すごく・・・すごく可愛いよ」
女の子にこんな言葉をすんなりと言えるとは。自分でも意外だ。
「へへ・・・」
照れ笑いをして擦り寄ってくる。
「・・・ねぇ」
両手で軽くはさむようにして、上を向かせ、目を合わせた。
初めて見るの瞳は湖にも似て、深く澄んでいた。
「俺を、愛してくれるかい?」
「・・・うん」
にっこり、満面の笑みで答えてくれる。その笑顔につられ、アイオリアも笑った。
『俺を』という言葉を強調したつもりだったけれど、通じたのかどうか。
だがそれ以上追求する勇気も持たず、またそんな余裕もない。
今、の全てを知りたかった。
全てが、欲しかった。
の狭いベッドの上で、二人は稚拙に愛を交わした。
手順も加減も知らず、何もかも覚束なかったけれど、それでも良かった。気持ちは満たされていたのだから。
ふっとアイオリアは、自分たちの年齢が死んだ兄に追いついたことを思い出す。毎朝鏡で見るたびに、酷似していると感じずにはいられない顔や体格に思い至る。
は、自分を通して、兄に抱かれているのではないだろうか。
おぼろげにそう感じたのは、今までじっと苦痛に耐えていただけだったが、ふうっと表情を緩めたからだった。
その目は、こちらを向いていない。窓際の方を、眺めていた。
ワインの満たされたタンブラーを見て、は微笑んでいた。
(兄さん・・・)
責められない、憎めない。
ただただ、切なかった。
その切なさも、初めての快楽に押し流されて、刹那のものとなる。
後には、充足感と愛しさだけが残されるのみで。
「女を捨てるなんて、土台ムリなんだよね・・・」
全てが終わり、熱が引けると、思い切り『女』をさらけ出したことが、少し恥ずかしくなった。
「いいよ俺の前でだけ。どんなも、受け入れられるから」
「うん・・・いつも、アイオリアはそばにいてくれたものね」
これからも。
歩き続ける、二人で歩き続ける。
後戻りは出来ない。立ち止まることも出来ない。
そんな時代の中にいる。
そして更に時は巡り−。
「、星矢がペガサスの聖闘士になったぞ!」
「本当、良かった!」
魔鈴とはウマが合ったし、星矢のことも弟のように可愛がっているだ、アイオリアの知らせに自分のことのように飛び上がった。
本当は試合を見に行きたかったのだが、都合がつかなかったのだ。
「星矢の試合を見ていて、がドクラテスとヴェラをかけて戦ったときのことを思い出したよ」
「そういえば、カシオスってドクラテスの弟だったわね。兄弟揃って聖闘士になりそこなったってわけか」
ふふっと笑って、もうそんな話題などどうでも良くなったは、椅子に座ったアイオリアにじゃれつく。自分で仮面を外し、キスを仕掛けた。最初は軽くついばむように、じらしながら深入りして、舌をからめる。
アイオリアは相手の細腰を引き寄せて膝の上に抱き上げた。ディープキスを続けながら体をまさぐるが、じき飽き足りなくなり、ベッドに引き込む。
「なんか激しいねアイオリア」
「久しぶりだからな」
服を脱がす手間も惜しみ、わざと荒々しい前戯を施す。
「久しぶりかなぁ。・・・ふぁっ、そこダメ〜」
びく、びくんと体を震わす。弱いところなんてとっくに知り尽くしていた。しつこく攻めて、悲鳴が甘くとろけてゆく過程を堪能する。
「弱いなぁ、いつになっても」
「そんなこと言っていいの・・・?」
くふふ、と笑って、くるんと自分が上になる。だって攻めるの大好きなんだから。
もちろん、アイオリアの体のことは全部分かっている。
「気持ちいいでしょ?」
「・・・ん、・・」
たまらずこぼれる小さな声が可愛く思えて仕方ない。黄金の獅子に対して『可愛い』なんて言えるのは、恋人である自分くらいのものだろう。
そして、ねばっこく互いの体の隅々までを味わい尽くせるのは、付き合いが長い二人だからこその特権だから。
ギリギリ我慢比べのように、アイオリアとは愛し合った。
「あたし、今でも信じてるの。アイオロスは反逆者なんかじゃないって」
静かに、しかしきっぱりと告げるを、抱き寄せる。
根拠もないことをこんなにも揺るぎなく信じ抜くことができる強さは、どこから来るのだろう。
少なくとも、自分にはここまで兄を信じることは出来ない。
それは後ろめたく辛い事実だったが、の心酔を考えれば、仕方のないことでもあった。
「アイオリア、愛してる」
「俺も、」
もうずっと兄を追い越し、を悦ばせることも上手になった。
それでも、まだは、自分の中にアイオロスの姿を見ているのかも知れない。
一度も口にしたことはないけれど、彼女のふとした目線に、言葉と言葉の空白に、いつもそれを感じていた。
でも、今は、それでも構わないと言える。
自分に宿るアイオロスの面影ごと、愛してくれるなら。
痛みも切なさも、死んでしまった兄の存在も。
全てを抱えて、歩き続けるから。
愛する人と、歩き続けるから。
・あとがき・
甘い話の反動か、時々ちょっと切ない話、イタイ話を書きたくなります。
なんかその周期が来たらしく、ぽっとこの話が浮かんできました。本当にあっという間に頭の中でまとまったので、これはそのまま書くしかないだろうと。
もう、アイオロスが反逆者にされてしまい、残された弟と弟子、という時点で切ない話ですよ〜!アイオリアは今回はテレビシリーズ版アイオリアのイメージ。
落ち着いていて大人っぽいの。
ちゃんに迫られたときは全然落ち着いてなかったけど、まぁ14才だったから(笑)。
アイオリアは、私が書くキャラの中で一番変化する人かも。つまり、その話ごとで性格が違う人ナンバーワン。
熱血とか純情とか直情型とか切ないものを抱えて生きているとか冷静とか、色んなイメージがあって、そのどれもが違和感ないからですね。
私、アイオリア大好きですよ。何たってカッコいいもんね!ドリームなのに集団暴行未遂の被害者にしてしまった。苦手な方、ごめんなさい。
更に言えば、当初ちゃんを襲う役はシュラでした。でもそうするとシュラがただの悪役になってしまい救いがないので、180度転換していい役に変えました。
ドクラテスって、アニメのオリキャラだけど、カシオスの兄なんだって。「可愛い弟」とかカシオスのこと言っていたから笑った。しかしこの人デカすぎ。アニメでは一応、聖闘士だったらしいけど、ここでは「聖闘士になりそこなった人」に設定を変えさせてもらいました。珍しい女聖闘士ドリームです。
私、あまりヒロインを聖闘士設定にはしないんですが、それは、あまりにも現実とかけ離れたヒロインだと、入り込みにくいんじゃないかな、と思っていたからです。
だから設定自体を曖昧にして、普通に友達だったり恋人だったりのドリームを多く書いていたんだけど。
女聖闘士ドリーム、どうでしたでしょ?
ちゃんを何座の聖闘士にするか、色々考えました。もちろん原作でもアニメでも映画版でも使われたことがないものを、更に小馬座・飛魚座・鳩座・風鳥座・兎座・炉座・カシオペア座・エリダヌス座はかづなのオリキャラで使っているので、それも除くことに決めて。
・・・そうすると、ちょっと変わったモノしか残らないのよね・・・(笑)。時計座とか八分儀座とかコンパス座とか彫刻室座とか。
結局、日本語でも学名でもちょっとカッコ良さげな帆座ヴェラに決定しました。
帆座というのは昔アルゴ座(アルゴ船という大きな船をかたどった星座)だったものを四つに分割して出来たもので、船の帆だけの部分なんだよね。同じアルゴ座から「竜骨座」も映画で出ていたし、帆座もきっとあるんだろうと。ちなみにあと二つは、羅針盤座と船尾(とも)座です。
しかし、船の帆だけの聖衣ってどんな形状なんだろう。すっごい気になる。最後の20才になった二人のシーンは書かなくてもいいかな、とも思ったけど、成熟したカップル(笑)をやっぱり書きたかったので。
自分の中のアイオロスごと愛してくれるならいい、というアイオリアは、兄を乗り越えたんですね。自分というものに自信があるからそう言える。そこも是非書きたかった。ちゃんがアイオロスに対してどんな思いを抱いているのか。その辺は、ヒロインの読者さん自身に任せようと思います。
単なるアイオリアの被害妄想かも知れないし。もしくは、本当に好きな相手はいつまでもアイオロスなのかも知れないし。
さあどうですか?この後、アイオロスが復活したら、また一騒動起きそうですね。
でもそれを乗り越えて(ちょこっとアイオロスとのロマンスもありながら)、シュラとも和解して、アイオリアと結婚してくれたらもう私は何も言うことありません。いや最初から何も言わなくていいんだけど。
H15.11.20
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