美術芸術
今日は、ソレントの提案で、美術館を訪れることとなった。美術芸術には疎いだけれど、薄手のニットにチェック柄ロングスカートを合わせたファッションで連れ立てば、それだけで秋気分の楽しいデートになる。
しんとした館内を、パンフレット片手に巡ってゆく。何だか上品な淑女になった気分・・・。場の高尚な雰囲気に酔い、の心は浮き立っていた。
ソレントは、一つ一つの絵の前で足を止め、じっくりと見ている。気に入ったものがあれば、かなり長い時間動かないこともあった。
アートの世界に入り込んでしまっている彼氏の隣で、それでも、は退屈しなかった。なぜなら、絵に倦むと今度は横を眺めていたから。美術芸術に心酔しているソレントは、とても素敵で、むしろ彼自身が芸術作品みたい・・・。
「これを描いたのは、僕らと同年代の画家なんだよ」
いきなり話しかけられて、思わず顔をそらす。絵ではなく彼の横顔に見とれていたなんて、恥ずかしい。
「そ、そうなの、素晴らしい絵ね」
取り繕いつつ改めて見ると、本当に綺麗な絵だった。女性の姿を優しい色使いで描いたもので、こういったものならにも分かりやすい。
絵の下にあるプレートに目を移すと、「ネロ」と作者の名が記されていた。
「ネロかあ・・・、この人、ソレントに似てるね」
手元のパンフレットに掲載された画家の顔写真を覗き込む。ソレントは「そうかな?」と笑っているけれど、可愛らしい顔立ち(本人には言わないけれど)や柔らかそうな髪質など、よく似ていた。
「それにしてもすごいね、私と同じくらいで、こんな絵を描けるなんて。私なんて美術とか芸術って、よく分からないのに。ほらこれなんて、幼稚園児の落書き? って思っちゃう」
向こう側の壁に飾られた、別の大きな額を指さす。抽象的というのか前衛的というのか、にとっては単にさまざまな色を筆で描きなぐっただけにしか見えない。
「そうとも言えるけど、この色使いや空間の取り方がね・・・やっぱり見事だよ」
繊細な横顔で、見上げ頷いているけれど。
「そ、そんなものかな」
やっぱり芸術ってよく分からない。
でも、自分にはよく分からないものを理解しているソレントを、は自慢に思うのだった。
美術館から出ると、秋の風がさあっと全身に吹きつける。たくさんの色彩たちに触れたせいで上昇した体温が、心地よく冷まされていくようで、は楽しげに両手を広げた。
「綺麗だわ、秋って季節も、とても素敵」
高く高く澄み渡った空と、肌にちょうどいい風、その中に踊る枯れ葉たち。
深呼吸をするのいきいきとした横顔を、今度はソレントが見つめていた。
「のそういう感性が、僕は好きだな」
「え・・・」
ソレントは、真っ直ぐにこちらを見ている。なぜか眩しそうな顔をして。
「きみは、美術芸術がよく分からないっていうけれど、画家は絵で、例えば僕なら音楽で表現しているだけのことだよ。にはちゃんと感じる心があって、それを今、言葉と動作で表現したじゃないか」
ソレントは微笑んで、手を伸ばす。握られた手は、少しひんやりとしていた。
「僕にとっては、絵を眺めたり音楽を聴いたりするのと同じように心地いいんだ、と一緒にいるのは」
「ソレント・・・」
嬉しいけれど恥ずかしくて、目を伏せてしまう。手を引かれ顔を上げると、ほてった頬を再び秋風が冷やしてくれた。
手を繋いで、一緒に歩き出す。良く晴れた空の下、二人で秋色の景色を進んでいく。
赤や黄色に彩られた公園に寄り道をし、並んでベンチに腰掛ける。
がねだると、ソレントは手にしたケースを開け、楽器を組み立て始めた。彼はこの金色のフルートをとても大切にしている、こうしていつも持ち歩くほどに。
やがて透明な大気を震わし流れ出す旋律に、耳を傾ける。
超一流のフルーティストとして評価を得ているソレントの演奏は、いつ聴いても心をとろかすような美しさに溢れている。しかし、技術的なことよりも何よりも、自分のために、心をこめて演奏してくれていることを、はよく知っていた。だから、彼の音楽を聴くとき、はいつも抱擁にも似た高揚感と幸福とに包まれるのだった。
音楽を通じて、ソレントは囁きかけてくれている。
−のことが、大好きだよ−
と。
(それなら私は、あなたを好きって気持ちを、どうやって表せばいいんだろう)
演奏できる楽器もない。
言葉では、とても足りない気がしているのに。
膨らみこぼれそうな心をどうにもできなくて、は、演奏を終えたソレントの肩に、そっとそっと、もたれかかった。
(好き・・・本当に本当に、大好き)
大胆すぎたかなと恥じらいかけたとき、肩に回された腕を感じて、気持ちが通じたことを知る。わずか顔を上げると、この上なく優しい瞳の中に、自分が映っているのを見た。
「ソレント・・・」
少しだけ、腕に力がこもって、引き寄せられた。
言葉はなくても、交わす視線と微笑みと、そして触れる身体が、互いの心を満たしてくれる。
まるで、優しい音楽のように。
薫る秋風の中で二人、寄り添っていた。
・あとがき・
このお題なら、秋でしょう。ということで、おととし、秋ネタとして考えていたものです。
「実際の季節に合わない話は書けない」と前回のあとがきで言いましたが、今年の秋ってことになると遠すぎるし、冬に秋の話を書くのは自分の中では許せる範囲なので。
秋という季節もいいですね。透明な空気、高い空、愁い・・・食欲(笑)。
ドリームのモチーフとしては、これもまた良い季節だと思います。さてソレントドリームですが、ドリーム界では多分、極少。ソレント人気って、イマイチなのかな。とりあえずジークフリートファンは敵に回しているだろう。アルデバランファンは、敵に・・・回してるかなあ?(笑)
私も初ですが、ソレントの話自体は昔よく書いていたので、慣れているといえば慣れています。
昔一緒に星矢で盛り上がっていたイトコの最愛キャラがソレントだったため、ほんと、彼のラブストーリィはたくさん書いていたものですよ。
割と腹黒? のように思われていることもあるソレントですが、私は外見にだまされ(笑)、素直な心優しい少年として書いておりました。
キャラとしても、好きですよ。何たって顔が可愛い。フルート吹けるのも素敵。でもアレ武器として使うのはどうかと。その反省として(?)、「美術芸術は平和のためにある」というようなセリフを言わせようと思っていたのですが、入る隙がありませんでした。美術芸術は、私もよく分かりません・・・。絵はヘタだし、不器用なため工作もダメで。実は小学生のとき、図工で「C」(ABCの三段階評価でした)取ったことがあります!(恥)
美術館に行っても、美術館の雰囲気にウキウキして、ギリシア神話モチーフの作品に反応するだけでして。今回のちゃんは、そんな私をモデルに描いてみました。
芸術の真髄はやはり心だよ! と思いたいので、こういう話にしてみました。「もしもピアノが弾けたなら」の感じね。
言葉以外で通じる何か、というのは、恋物語としてはロマンチックでいいですが、現実的にはどうかな。基本的に、「ハッキリ言葉で伝えないと、伝わらない」と思っている私です。
そして私は、気持ちを口に出すのが苦手なので、それでいつも困っています(笑)。ネロは、リンかけ2に出てきたキャラなので、通じる方少ないかも知れませんが、ソレントとそっくりだなーと思ったのでどうしても使いたくて書いてしまいました。
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