諦めないで
いつものようにつるんで歩いているとき、東北出身の親友は東北弁でこう言った。
「なあトットリぃ、っていいと思わねが?」
・・・その名にドッキリ反応する。
これが、ことの発端だった。
「ちゃん・・・だらぁか」
ここガンマ団で働いている数少ない女性で、電話交換手をしている。いつも明るいその笑顔を、トットリも思い浮かべていた。
「オラ・・・オラなぁ、と仲良くなりたいんだべ」
興奮した口調で早口にまくし立てる。見ると顔が紅潮していた。
「ミヤギくん、まさかちゃんのこと・・・」
そんなんじゃないって、笑い飛ばして欲しい。
トットリは祈るような気持ちでいたけれど、ミヤギは胸に片手を当て言うのだった。
「のこと考えると、ここが苦しくなるべ。これってよォ、恋だべな」
「・・・・」
凍りついて言葉をなくす。そんなトットリを振り仰ぎ、
「トットリ、オラさ協力してくんねえべか」
いつもに似ないしおらしさで、頼み込むようにする。
トットリは、承諾するほかなかった。自分の気持ちを押し隠し、黙って頷いた。
「いた、だ。じゃトットリ、頼んだべ」
雲ひとつない晴天なのに雨傘を持って、ミヤギはに近付く。
トットリは浮かない顔で、片足を軽く後ろに振り上げた。
彼のゲタはただのゲタではない。能天気雲を自在に操り、どんな天候も思いのままにできるのだ。
いきなり雨を降らせ、困っているを傘に入れてやる。という単純な作戦を立てたミヤギに付き合わされたトットリは、それでも律儀にゲタを投げた。
もくもくと、能天気雲がどこからともなく頭上にやってきたのを見て、ミヤギは相合傘作戦の成功を心に描きニヤけていた。
(よっしゃ、雨だべ)
ビュウ・・・
(!?)
「あちゃ、まずいっちゃ」
ゲタの目は「強風」。雲は張り切って風を吹かせ始めた。
「きゃっ」
のスカートがひらりめくれるのを、思わずミヤギはじっと見てしまっていた。
「バカー、ミヤギくんのエッチ!」
バシッ! としたたか平手打ちを見舞って、はプンスカ行ってしまう。
「い、痛えべ・・・」
ミヤギの頬には、赤い手形がくっきり残されていた。
「トットリ! なして雨を降らせてくれなかっただ!?」
「ごめんっちゃミヤギくん。間違っちゃったわいや」
「間違っただ? おめがそんな失敗したのを見たことがねぇ。ワザとだべ!」
激しくなじられ、首を垂れていたトットリだが、ワザと、という言葉にキッと顔を上げる。
「ワザとじゃないっちゃ!」
握ったこぶしが震えている。何かを言いたいけれど言葉にならないといった様子に、さすがのミヤギも違和感を覚えた。頭に上った血がすーっと冷めてゆく。
「いや、まあ、風も悪くはなかったども・・・」
さっきのシーンを思い起こして、また顔が緩みかけた。
「いいべ、次は頼むべ」
懲りない笑顔を見せている親友に、言うか言うまいか心底迷ったけれど、トットリは意を決した。
「ミヤギくん、ぼかぁミヤギくんに協力はできないっちゃ」
ミヤギは耳を疑った。さっきとは180度変わってしまった態度に、怒るより戸惑わずにいられない。
「な、なしてだ」
「それは・・・」
すーっと息を吸う。トットリは一気に言い切った。
「ぼくもちゃんを好きだからだっちゃ」
空白に耐え切れず、目を逸らす。
あぜんとして、ミヤギはすぐに言葉も見つけられない。どんな顔をすればいいかも分からず、薄笑いのようになってしまった。
「はは、嘘こけ」
だがトットリの真剣な様子に、表情を引き締めるしかなくなってしまう。
「・・・んだか」
いくらベストフレンズといっても、女の子の好みまで一緒じゃなくてもいいのに。
ミヤギは、途方に暮れていた。
「じゃやっぱり、さっきのは・・・」
「違う・・・最初はミヤギくんが言うならホントに協力しようと思ってたっちゃ。けど」
押し込めていた本当の気持ちが、ゲタの加減を誤らせた。意識せずとも心を映し、望み通りにはなってくれなかったのだ。
それが皮肉にも、トットリにはっきり知らしめることとなった。を、こんなにも想っているのだということを。
「ミヤギくんには悪いけど、ぼくも諦められないっちゃ」
迷いない宣言に、トットリの本気を垣間見た。
互いに後へは引けないのだと知ったとき、ミヤギは戦うための構えを取っていた。
「ミヤギくん」
「オラ無骨者だから、こんな方法しか思いつかねえべ。トットリ、勝負しろ。負けた方はすっぱり諦めるべ」
白黒つけておきたかった、今ここで。そうしないと、禍根が残るような気がした。
「行くべトットリ」
「ま、待つっちゃミヤギくん」
問答無用とばかりに、向かってゆく。生き字引の筆を抜かないのは、純粋な肉弾戦を求めているからだ。
トットリは最初の一撃を辛うじて避ける。続く攻撃も。また次々と。忍だけに、敏捷性には自信があるのだった。
「−なして戦わねえトットリ!」
防戦一辺倒の相手に焦れて、声を荒げる。むやみに繰り出した拳を、てのひらに受け止められた。
「ミヤギくんこそ、こんなの全然本気じゃないわいや」
「・・・・」
唇を噛む。
ため息と一緒に、その場に座り込んだ。
「オラぁ、いやだべ」
トットリと足の引っ張り合いをしたり、妬んだり妬まれたり、なんて。考えたくもない。
「ぼくも、女の子のためにミヤギくんとの友情にヒビが入ったりしたら、イヤだっちゃ」
と、いっても、諦められない。
二人とも、分かっている。
そう、諦めないで。
目が合うと、どちらともなく、笑っていた。
「正々堂々と、行くしかねえべな」
「だっちゃ」
本当の気持ちをぶつけ合ったなら、その結果がどうなろうとも。ベストフレンドの二人だから、きっと大丈夫。
「ミヤギくん」
「トットリ」
がっしり固い握手を交わした。
「なんじゃ、つまらんのォ」
という声に、手を握ったまま見ると、コージが大儀そうに立ち上がっているところだった。
「ケンカかと思って見に来たのに、もう終わりか。あー腹減った。わしゃあ帰るけんのォ」
「見せ物じゃねえべ!」
「・・・ええどすの、友情・・・って」
木の幹に「の」の字を書きつつ、こっそり覗き見ているアラシヤマには、もはや誰の声もかからなかった。
「あ」
「だべ」
ちょうど向こうから、お目当ての女の子がやってくる。
ミヤギとトットリは、お互い髪や服を整え合い、彼女のもとへ近付いていった。
「、さっきは悪かったべ」
「あらミヤギくん。ううん、気にしてないわ。私の方こそ、ごめんね」
「ちゃん、仕事終わっただらぁか」
「うん。今終わったとこ」
トットリとミヤギは目を合わせてから、に誘いの言葉をかけようとした。
「、今日これから暇だべか」
「良かったら一緒に・・・」
「−ああっ!」
いきなりが発した叫びに、二人の精一杯の声はかき消されてしまった。
ずっと遠くを見ている目線を辿ると、黒髪の男にぶつかる。
ガンマ団の者なら誰もが知っている。総帥の息子、シンタローだ。
「・・・ステキ」
小さな小さな呟きに、耳を疑う気持ちでの顔を見ると、夢見るようにぽや〜んとしていて・・・。
ミヤギとトットリは、もう一度顔を見合わせた。
間違いない、この反応は・・・。
「ちゃん」
「おめもしかして、シンタローのこと・・・」
「えっバレちゃった!? やだウソ!?」
真っ赤になって焦りまくるに、「そりゃバレるべ」とツッコミを入れずにおられなかった。
「本当に素敵よね、シンタローさんって。カッコいいし強いし・・・」
聞きたくない、そんな問わず語り。
耳をふさぎたい気分の二人の前で、はふっと表情を曇らせた。
「でも、きっとムリよね。シンタローさんと私じゃ、つり合わないもの」
「−何言ってるべ!」
思ってもみない強い調子に、びくっとする。ミヤギの元々きつめの目が、更に怒っているように見えた。
「はめんこいし、性格もいいべ。シンタローとならきっとお似合いだべ! ・・・あ」
はたと口をつぐむも、言ってしまった言葉は取り消せない。
一体何を口走っているんだろう!
「ミヤギくん」
トットリには、ちょっと分かった。
一途に想うに、自分が重なって。背中を押してやりたくなる気持ち。
それからもう一つ、二人とも同時にフラれた形になって、残念ではあるけれど、どこかホッとしていること。
「ちゃん、ぼくもそう思うっちゃ」
「トットリ・・・」
二人は並んでの前に立っていた。
「諦めないで、頑張るっちゃよ」
「だべ」
優しい目で見下ろしてもらっていることに、安心と、勇気を得た。
「うん、ありがとう!」
手を軽く上げ、はシンタローのところへか、去ってゆく。
最高の笑顔にぽーっとしてから、目と目が合い、親友同士、笑い合う。苦笑いは微笑になって、いつか声を出して笑っていた。
「よしトットリ、今夜は二人で行くべか!」
「いいっちゃよ、ミヤギくん」
「ヤケ酒だべー」
という割には明るく、肩を組み街へと向かうのだった。
「やーっぱり、おなごよりも友情だべ」
「だっちゃ! 僕とミヤギくんは、ずーっと、ベストフレンドだっちゃわいや」
何杯目か知らないジョッキをガチンと合わせる。
「なんてもう知らねえべ!」
「シンタローと勝手に幸せになればいいんだっちゃ!」
「私が、何・・・?」
割り込んできた声に驚いて、顔を上げる。
「ちゃん!?」
いきなり現れたは、黙ってミヤギたちのテーブルにつくと、勝手にビールを注文した。
「・・・どしたべ」
「私・・・、シンタローさんにフラれちゃった」
声の揺れにまた驚く。は涙ぐんでいた。
「あ・・・っ、ごめんっちゃちゃん、ぼくらが無責任なこと言ったばっかりに」
「シンタローの奴、何様のつもりだべ、を振るなんてよォ!」
頭を下げるトットリと、今にも立ち上がって怒鳴り込みに行きそうなミヤギ。
そんな二人の反応は、には思ってもみなかったものだった。
「ちょっと待って、違うわ。シンタローさんは、今は女の子と付き合うとかそういうことは考えられないからって。ごめんねって、すごく優しく言ってくれたの」
そのときの彼の、思いやり深いまなざしや、慎重に選んでくれた言葉などを思い出すと、の心に温かいものが満ちてくる。目元をぬぐい、まだうなだれたままのトットリに笑いかけた。
「トットリくんたちのせいなんてことは全然ないの。逆に感謝してるわ。あんなふうに言われなかったら、私、ずっと黙って見ているだけだったと思う」
運ばれてきた冷たいジョッキを早速持ち上げたには、いつもの溌剌とした笑顔が戻っていた。
「諦めないで良かったと思っているから。飲むわよ、今夜は!」
「よっしゃ、飲むべ!」
「乾杯だっちゃ!」
三つのジョッキが合わさった。
ミヤギとトットリは、単純に喜べないような、なんともスッキリしない気分だったけれど、胸のもやもやはビールと一緒に飲み下してしまおう。
せっかく三人でいるんだから、何もかも忘れて、飲もう。
そして、まだ、諦めないで。
そこから新しい何かが生まれてくるかも知れないから。
・あとがき・
相方リク、ミヤギとトットリのダブルキャラドリーム。
ダブルキャラドリームというのはかづなの造語ですが、ヒロインに対してお相手キャラ二人以上の複数ドリームをこう呼んでいます。
星矢でもちょくちょく書いているので、当然のようにパプワでもお目見え。
ストーリィは相方が考えてくれたのをベースに組み立てました。
ダブルキャラの場合、どちらか片方だけとヒロインがくっつくというのは私の好みではないので、両方フラれるという相方の提案を気に入って使わせてもらいましたよ。
でも最終的にはちゃんまでもフラれてしまって、何か希望が残ったような感じかな?この話の続きもあります。大人向けドリームですので、大丈夫な方のみ、裏ページからどうぞ。
H17.10.27
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