赤の色









　ハーゲンが、幼い頃から強くなる特訓のため通い詰めていた洞窟に、は初めて足を踏み入れた。
　熱い。奥から熱気が伝わってくる。もう汗が出始めている。
「こんなところで拳の練習を・・・」
「強くなりたかったからな。フレア様をお守りするために。今もそれは変わってないさ」
「・・・そうね」
　昔から、彼はそうだった。
　フレア様のために、と。
　そのたびに、切ない思いを味わっていること、この人は知っているのだろうか？
「うわ、すごい」
　地底からマグマが噴き出て、池のようになっている。洞窟内は赤の色で染め上げられていた。
　さすがに足がすくみ、もう進めない。
「ははは。にはもう無理だろう。戻るぞ」
「・・・うん」
　一度見たいと、無理を言って連れて来てもらったけれど、想像以上にすさまじい環境の中では言葉少なになる。こんなところで練習を積み重ねてきたのなら、なるほど強くなるはずだ。
　汗だくのはそれでも満足で、ハーゲンに手を引かれ、元の道を逆に歩いていった。
　自然に繋がれた手に、ドキドキしている。
「あっ」
　転んだ。ボコボコの足場に、つまづいたのだ。
「大丈夫か？」
　すぐに屈んで、様子を確かめてくれる。
　どちらかというと荒々しい性格のハーゲンだけれど、本当は優しいことを、は昔からよく知っていた。
「ボーッとしすぎなんだよ、おまえはいつでも」
　ケガがないと分かると、もうこんな口を利いてくるけど。
「悪かったわね」
　立ち上がろうとするけれど、右の二の腕をしっかり掴まれていることに気付き、動けなくなる。
「ハーゲン？」
　目の前に片膝をつき、ハーゲンは、じっとこちらを見ていた。
　痛いくらいに手に力を込められ、眉根を寄せる。
「何・・・？」
　ハーゲンの大きな瞳で見つめられれば、もう言が継げなくなる。
　彼は少し、笑ったようだった。口元を歪めるような、笑いだったけれど。
「ここで、セックスしようか。」
　そんな言葉も赤の色の中で。

「どうして？」
　口からはこんな言葉が出るけれど、本当は少しも疑問など抱いてはいなかった。
　二人、ここでこうなるのが当然と思わせる何かがあったから。
　もしかしたら、この空間に満たされた、赤の色のせいかも知れない。
「どうしてだろうな」
　ハーゲンもこう言いながら、全ての原因についてちゃんと分かっていた。
　ずっと抱き続けていた気持ちが、赤の色の中で、欲望と共に噴出したに過ぎないのだと。
　熱でぼうっとする。服なんてとっくに全部取り去ったのに、ますます暑くなるばかりで。
　燃え盛り過ぎている暖炉の前でついウトウトしたときのように苦しくなって、は体をねじろうとする。
「逃げるなよ」
　手首を押さえつけられた。キスをされ、ますます息苦しくなる。
　酸素を求めるようにあえぎ、ハーゲンの浅黒い肌に手をかけた。
「・・・ハーゲンは、フレア様を好きなのかと思ってた」
「フレア様への忠誠とを好きだってのとは全然違う話だろ。恐れ多いこと言うな」
　怒ったように、少し乱暴な仕草で上に重なってくる。
「・・・うれし・・・」
　ずっと好きだったから。
　ここでこんなふうに成就するなんて、思いもしなかった恋だけど。
「いいか？」
　脚を開かされ、性急に彼が割り込んできた。
「やだ、もっとゆっくり・・・っ、痛・・・」
　うめいて目を閉じると、まぶたの裏で赤の色が弾ける。
「ふ・・・うっ・・・」
「」
　苦しそうな声を聞いても、止められない。せめて髪や頬を撫で続けた。夢中で名を呼びながら。
「・・・好きだよ、ずっと・・・ずっと前から」
　汗が滴る。
　うっすら目を開けると、乱れた金の髪とまっすぐな青の瞳が見えて。
　は痛みの中でも幸せな気持ちになれた。

　赤の色が混じり合って交差して。
　幾重にも塗りつぶされた中、二人は愛を通じ合わせた。

　赤の色が、心と体に刻み込まれる。

「ごめんな。本当はもっとちゃんと告白するつもりだったんだけど」
「謝らなくてもいいよ」
　流されたのは、だって同じだから。
「ずっと大事にするからさ」
「・・・うん」
　肩を抱かれて、そっと寄り添う。
　炎の洞窟を抜け出せば、吹雪の中にさらされるけれど、二人こうして歩いていけば寒くない。
　これから先も。

「カンチ、セックスしよう！」
って「東京ラブストーリー」の名ゼリフ。
ヤング置いてけぼりの話になっちゃうけど、当時トレンディドラマと呼ばれてヒットしたこのドラマ、私は見てなかったけど夫が好きだったらしく。最近ＤＶＤを購入して見ていたのね。
それで、こんなふうにストレートすぎるセリフで誘われるドリームというのを思いつきました。
実はミロの「鎖」も、同じルーツから出来上がった話なんだけど。
こう直球で来られると、ズキュンときますよね。
でも、どのキャラにこのセリフを言わせようか、随分迷いました。ある程度年が下の方がいいだろうから、黄金以外で。かといって青銅だと下すぎるし、ちょっと乱暴な感じの人じゃないとイメージに合わないし・・・って。
それで行き着いたのがハーゲンだったわけです。ちょうど今、「まだ書いたことがないキャラ」を書きたいブームだったのもあったので。
前に、ハーゲンってフレア様至上主義だからドリームに出来なさそう、みたいなことを言っていたけど、やってみたら意外とそんなことなかった。
情熱的に一途に愛してくれそうです。

「赤の色」は、カミュとミロのダブルキャラで使おうと思っていたお題だけど、あっさりと変えました。よくあることだけどね（笑）。
カミュの赤い髪とミロの赤い爪ってことでぴったりじゃないかな、なんて、内容は全然思いつかなかったのに決めていた。
でも、アスガルドにいながら炎の技も使うハーゲンなら、このお題いいんじゃないかなと。

汗だくでぼーっとして、風邪でもひいたみたいな気分の中で初体験・・・。大変でしたねちゃん（笑）。
十代の暴走って感じでこういうの好きなんですけど。

Ｈ１６．１．１０

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