ウィンターワンダーランド
注:14歳で復活したアイオロス設定です。
「うわー、積もった積もった!」
窓の外一面の銀世界に、は歓声を上げる。が次の瞬間には、顔を曇らせていた。
「今日は無理かなぁ、アイオロス」
毎日のように来てくれる彼だけれど、こんな雪では、さすがに難儀なことだろう。
の心配通り、約束の時間になっても誰もやって来はしない。
「つまんないな・・・」
カップを置き、ココアの匂いがするため息を窓にこぼす。ベルが鳴ったのは、ちょうどそのときだった。急いでドアを開けると、待ち望んでいた笑顔で、アイオロスが立っていた。
「ごめん、遅くなって」
弾む息は白くて、それでも彼は、いつものことながらびっくりするほど薄着だった。
「これ作っていたんだ、雪が降ったから」
と左手に握ったひもを示す。が覗き込むようにすると、アイオロスの足もとに、木製のソリが見えた。
「わあ、それアイオロスが作ったの?」
「すごいだろ? 行こう!」
得意げに笑い、すぐにも身を返しそうなアイオロスを呼び止め、大急ぎで身支度をする。コートを着てマフラーを巻きブーツを履いて。手袋やイアウォーマーも忘れてはいけない。
「オッケー、行こう!」
「よし」
差し出された手をがっしり握って、手付かずの雪景色へと飛び出してゆく。雪を蹴り上げると銀の粒が細かく舞い飛び、の髪を笑顔をきらきら彩った。肌の色は透き通って、唇はますます朱く、かえりみてその可愛らしさにアイオロスはにっこりする。
力強い腕に引かれ丘を登ると、も軽く汗ばむほどにほてっていた。
「行くぞー」
ソリに二人乗りをして、斜面を滑り降りてゆく。手作りのソリは、とてもよく滑った。
アイオロスがすぐ後ろに、密着といっていいくらい近くにいることを感じると、風切る疾走感と相まって気分は高揚していく。思い切って体を預けた。何て安心できるんだろう。
「うわーい!」
白くお化粧した木々が、どんどん脇を流れてゆく。遠くの稜線もくっきりと、まるで二人を呼んでいるかのよう。目に痛いほど眩しい世界に、アイオロスとの声は吸い込まれる。
このソリでなら、どこまでも行けそう。だってここは二人だけのワンダーランドなんだから。
どんどん加速していくので、さすがに恐怖を感じ始めたとき、デコボコに引っかかり、ソリごと転んでしまう。でも、アイオロスがしっかり守ってくれたから、はちっとも痛くはなかった。
「大丈夫? アイオロス」
「平気平気。雪の上だし、何てことないよ」
顔を見合わせると、自然に、笑いが口もとにのぼってきた。
笑い声に笑い声が重なる。そしてそれも止んだとき、ふいと、アイオロスの腕に力が加わった。は、すっぽり抱きしめられている格好になっていたことに気がつく。
吹き付ける風を、冷たいと感じた。同時に温かい吐息に触れた。
「−キスしていい?」
ちいさく、アイオロスはそう聞いてきた。そうしてから、顔を寄せてきたので、は背伸びした高鳴りの中で動けなくなる。
白一色の世界で、明るい瞳の色に、吸い込まれそう・・・。
「アイオロス」
呼ぶ声が、微かに震えた。ほとんどゼロに近い距離へのおののきは、彼にも伝わったらしい。アイオロスは笑って、そのままの頬へと口づけた。
軽く優しく、でも、触れた唇は、何より熱かった。
「今度、俺の住むサンクチュアリにおいでよ。弟や友達みんなに、を紹介したいんだ」
「う、うん」
「ちょっとビックリするかもしれないけどね」
14歳の自分に、20歳の弟がいると知ったら、はどんな顔をするだろう。想像すると楽しみで、含み笑いのアイオロスだった。
「また明日も来るよ」
家まで送ると、ひもを引いたままアイオロスは手を振った。
「置いていってもいいわよ、そのソリ。また遊ぼうよ」
「うん。でも今日は持って帰るよ。それに、ソリだけじゃなくて、スキーもスケートもしたいし、雪だるまも作りたいし、かまくらもいいし・・・やりたいこといっぱいで迷うな」
指折って、本当に迷い顔のアイオロスに、おかしくなってしまう。
「冬って、楽しいね」
心からはそう言った。一番厳しい季節なのにワクワクが止まらないのは、きっと、アイオロスと一緒だから。
「冬いっぱい、と遊びたいな」
白い雪の世界を背にして、にっこり笑う大好きな人に、は大きく頷いてみせた。
ウィンターワンダーランドは、二人の中で広がってゆく。
<おまけ>
その夜、獅子宮の中でアイオリアは、兄のお手製ソリを前に、悶々としていた。
『お前も彼女を誘って、これで遊べよ。きっといいことあるぞ!』そう言って貸してくれた・・・というか、有無を言わさず置いていってくれた。上気した頬でニコニコしていた少年の兄には、間違いなく「いいこと」があったのだろうけれど。
彼女を誘えるだろうか。誘えたとして、ソリなんかで遊んでくれるだろうか。
しかし兄の好意(?)を無視するわけにもいかないし・・・。
心地よくいい夢を見ているアイオロスとは対照的に、眠れないアイオリアだった。
・あとがき・
もうすぐクリスマスですね。
娘の「おかあさんといっしょ」のテレビ絵本(といっても、去年の今ごろ買ったものですが)に、クリスマスの歌が少し載っていて、その中に「ウィンターワンダーランド」があったんですよ。
このタイトルだけでワクワクしますよね!
これでドリーム書こうとひらめきました。でも、最初はアイオリアで浮かんでいました。兄さんお手製のソリで、彼女を誘うアイオリア。しかも子供のころの話にしようなんて思っていた。無邪気な子供たちのソリ遊びの話にしようと。
でもいつの間にか、アイオロスにすりかわっていました(笑)。
14歳で復活したアイオロス設定なら、そのまま書けるなあと。
少年少女の恋が大好きなんだー!(叫)
しかし、「弟だよ」と20歳の逞しい男を紹介されたら、ちゃん度肝を抜かれますね。
少年のままの兄、自分をぐーんと追い越してしまった弟。
アイオロスとアイオリアの心境って、どんなものかしら。昨日、初雪が降りました。11月も末に初雪なんて、遅かったなー。
猛暑の名残か、暖かい日が続いていたからね。
これから本格的な冬ですね。
小説のモチーフとしては、冬とか雪とか使うのも好きです。今までもたくさん書いています。
顔が一番きれいに見える季節って、冬だと思う。空気が澄んでいるし、美容の大敵・紫外線も少ないし。雪なんか積もっていれば、照らされてきれいに見えるのよね。
寒いから、密着したい気持ちもあったりして、冬の恋もまったりしっとりと、いい感じだと思います。
星や夜景もきれいだよね。
何より冬は、きりり、ぴーんと張り詰めた感じが、美しいと思います。
H16.11.30
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