春 眠
天秤宮の入り口に、二人並んで腰かけた。
けぶるような空の、今日のような日なら、宮の奥でじっとしているのも、外を駆け回るのも気分じゃない。
そう、こうして、特に何をするでもなく、ぼーっとしているのがいい。
やがて一番好きな人の左腕にもたれて。
「ああ気持ちいい。眠い・・・」
春曇り、暖かくよどんだ大気がまとわりつき、を眠りへといざなっている。
「もうダメ・・・。童虎、膝かして・・・」
ゴロン。
「コラ」
と言いながらも、童虎に咎める気持ちはない。膝を枕に早くも目を閉じている恋人の髪に、優しく触れた。
「困った娘じゃ」
「だってほら、中国のコトワザにあるでしょう。春眠暁を覚えずってさ・・・」
声も半分眠っている。童虎は覚えず、微笑んでいた。
「諺ではなく、詩の一節だが・・・春の夜は寝心地がよくて、朝になってもなかなか起きられないという意味じゃ。のは、春になるといつでもどこでも昼寝をしたくなるってことじゃろう。・・・? もう寝とるのか」
せっかくの解説も、子守歌にしか聞こえなかったのだろう。の口元から、静かで規則正しい寝息が漏れていた。
安心しきっているがゆえの無防備さ、その可愛らしさに、目を細める。
「ふぁぁ・・・」
童虎も、身じろがないように気をつけながらあくびをした。のことは言えない、ゆるやかな春の中では眠たくなってくる。
背後にある白柱に背をもたせかけ、目を閉じると、すぐにうとうとし始めた。
「おや」
下から上ってきたアイオロスは、天秤宮の手前で足を止めた。
ここの主が座って柱にもたれ、その彼女が膝に頭を預けて。二人そろって、昼寝をしている。
アイオロスはニコニコしながら、まん前にしゃがみこんだ。
(かわいいなぁ、の寝顔)
顔に落書きをしてやろうか、それともおかしな格好をさせて写真に収めちゃおうか・・・。
そんな他愛ない悪戯をふたつみっつ頭に浮かべたアイオロスだったが、どれも実行には移さず、静かに立ち上がった。
邪魔はしないでおこう。彼にしては珍しく、気を使ったのだった。
「ふぁ〜あ」
天秤宮の中を歩きながら、大きく伸び、あくびをする。
「俺も眠くなった」
何故に春は眠い。
人馬宮に戻ったら、あの二人を真似て昼寝をしよう。一緒に寝てくれる、みたいなかわいい子はいないのが残念だけれど。
(童虎・・・)
(・・・)
夢の中も春で、そして二人は夢の中でも一緒にいる。
大好きな人と手を取り合って、暖かさに遊んでいる。
春眠の翼にくるまれて。
・あとがき・
童虎ドリーム久しぶりですね。
春らしく暖かくなって、眠くなってきて。そんなところから浮かんだものです。
恋人同士のこういう雰囲気、大好き。
「春眠、暁を覚えず」って、もう使い古されるほど使われすぎたフレーズだから、本当は入れようかどうか迷ったんだけれど、ベーシックをいくのは好きなので、あえてちゃんに言わせてみました。
アイオロスを出すことについても迷ったけれど、はたから見た二人の様子を書くのもいいかなと。やっぱりアイオロスは悪戯ばっかり。私の書くアイオロスって項羽みたいね(笑)。
アイオロスの隣でお昼寝に付き合う役に立候補したいと思ってしまった私・・・。童虎は年の功で紫龍にも色々教えていたみたいだから、付き合っていると物知りになれそうです。
実際は頭に入らず、薀蓄聞いているうちに眠くなったりして・・・。
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