プワゾンキス
天秤宮と天蠍宮を繋ぐ階段の途中に、座り込んでいる人影がひとつ。
「はあ〜」
人影−−が、ため息をついた。着信したばかりの携帯画面を眺める顔は、今日の天気に似合わずどんよりと暗い。
(週末も、会えないのかぁ・・・・・・)
今は忙しい時期なのだとか何だとか。無機的な文字のみで構成されたメールを読み返す気にはなれず、ぱたり折りたたんでしまう。
はだから、にいる。情報処理の技術に長けたが、この聖域からに派遣され、二か月間滞在していたときにできた彼氏だ。
遠距離恋愛は正直、寂しい。だけれど、だからこそ、会えたときの嬉しさは格別だ。普段そばにいないからこそ育める愛情というものが、きっとあるはず。
そう自分自身に言い聞かせては、電話やメールでのやりとりで満足を得ようとしているのだが・・・。
「やっぱり会いたいよ〜、ー」
背を丸くして、携帯電話を抱きしめる。
「何やってんだ、」
頭の上から降ってきた声に、びくうっと顔を上げる。金色の光が眩しくて、強くまばたきをした。
「・・・ミロ!」
次宮の守護者が、コンビニ袋を手にすぐそばで見下ろしている。は慌てて立ち上がった。
ミロは彼女の手に握られた携帯を見やり、わずか唇を引き結んだ。だが気取られぬよう、すぐにいつもの笑顔で覆い隠す。
「寄ってけよ」
そう言ってミロが示した買い物袋に、が好きなお菓子のパッケージが透けて見える。喜んでついて行ったのは言う間でもない。
「・・・でさ、また今週末も会えないんだって」
スナック菓子を際限なくつまみながらの話を、ミロはじっと聞いてやっていた。一段落つくまで、我慢強く。
こっちがどんな想いでいるかなんて、は全く知らない。だからこそ、こんなにも残酷な真似をしてくれる。愚痴という名のノロケを、平気な顔して語ってくる。
そんななんかより、ずっと前からこの子だけを見ていたのに。
に派遣されると知ったとき、いやな予感がして。二か月後、その予感的中に、落胆や悲しみを通り越して怒りすら覚えた。
そのときから、チャンスを狙っていた。絶対に奪ってやると、決めていた。
、と発音する、ピンク色した唇を見つめていた。この唇に、他の男がキスしている。この体を、他の男が抱きしめている・・・。そう思えば、嫉妬で狂いそうになる。
「本当にねえ、遠距離なんてさ・・・」
ため息に混じった本気の寂しさを受け止め、それを合図のように、立ち上がる。
ミロは限界を知っていた。自分の気持ちを止めようとも思わなかった。
「やめちまえ」
吐き捨てるような勢いに、の動作が止まる。ミロは数歩で近寄ると、が腰掛けている椅子のひじかけに手をついた。「?」の顔をして見上げるに、もっと顔を近づける。
「俺だったら、寂しい思いはさせない」
声のトーンがまるで変わってしまったことに、も気付いていた。それでも、ぎこちなく笑うことであがこうとする。
「またまた、そんなこと・・・」
軽い調子は、最後まで続けられやしなかった。ミロの瞳の深さに、冗談にできないことを知ったから。
「い、色々言ったけど、やっぱり私、が好きだから・・・」
目を逸らそうとしても、あごに手を添えられ、許されない。
「どうしてそいつじゃなきゃいけないんだ? 俺だってのことが好きだ。ずっと好きだった」
唐突な告白に、その激しさに、気おされる。意識が一瞬飛んで、何も考えられなくなって。
「ミロ・・・」
胸が音を立てているのが、苦しい。
「、俺を選んで」
この人の声って、こんなに官能的だった・・・?
「俺のものになってよ」
こんなに魅力的な、「男」だった・・・?
息に触れる。いつの間にか、至近距離。
(キス、される・・・)
分かっているのに。何か痺れたように、体が動かない。
反射的に目をつぶると、もう、触れていた。
彼の情熱そのもののように、熱い・・・。
ミロとのキスは、刹那的で後ろめたい、罪の味がした。
それだけに、癖になりそうな甘味に満ちていた。
逃げるように天蠍宮を後にするを見送って、ミロは確かな手ごたえに満足していた。
脈はある。絶対、気持ちを向けさすことができる。
「今日はキスだけだけど、今度はそうはいかない」
呟くと、自信に満ちた笑いを浮かべた。
・あとがき・
「このキャラとこんなキスをしたい!」というタイトルで投票所を設けてみたところ、ミロへのコメントで「恋人がいるヒロインに、強引に」というのがあったので、ムラムラ書く気が起きました。
ちゃんが付き合っている彼氏が、同じ黄金聖闘士だったら、ミロももっと悩むだろうし後味が悪いので、ということに。
一応、和解しているとはいえ、やっぱり黄金聖闘士の仲間ではないので、「奪ってやる」という気持ちになっても不自然ではないだろうと。
、ごめんなさい。でもちゃんがどっちに転ぶか、この時点ではまだ分かりませんものね。
ちゃんはミロのキスに抵抗しませんでしたね。不埒かも知れないけれど責められることではないと思う。だってミロみたいなイイ男にいきなり告白されたら、例え彼氏がいたとしてもグラっとくるでしょ。遠距離の寂しさもあり、もしかしたらとの関係に終わりが見えかけていたころなのかも知れない。
選んだり選ばれたりふったりふられたり色々あるもんだし、そうやって磨かれてゆくものだし。
そんな気持ちで書きました。
何より、彼氏がいるのに強引に迫られるというのはおいしいシチュエーションでしょう!!ミロ主演でちゃんとストーリィがあるドリームというのは久しぶりのような気がします。これも短い話だけど。
自信家で強引。本編のミロのイメージです。タイトルは書き終わってもなかなか浮かばなかった・・・珍しい。
「プワゾン・チュチュ」って昔のアニメ「ラムネ&40」の歌であったんだけど(そしてこのタイトルでパプワの小説書いたこともあるんだけど)、苦し紛れにもらいました。
毒ですね。でもポイズンというより可愛い感じです。
H17.4.27
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