Family
「赤ちゃんって、可愛いよな。俺も欲しくなっちゃったよ」
いつも明るく朗らかな彼が、いつも以上に上機嫌だと思ったら、こんなことを言い出したもので。
は、きょとんと見上げた。
「なに、どうしたのいきなり」
隣のごく近いところで、アイオロスは満面の笑顔だ。
「いや、今日街でたまたま、ちっちゃい赤ちゃんを見てさ。可愛いなあって。こう・・・」
まあるく抱っこする型を両腕で作り、優しい視線を落とす。まるでその内にほんとうに赤ちゃんがいるみたいに。
生まれたばかりの弟に、こわごわ触れたときの喜び。
貴い存在を、何にかえても守ろうとした、ゆるぎない決意。
ふたつの記憶が、手の中に交差する。小さいけれど確かな重みとぬくみを伴って。
「・・・それでさ、思ったんだ」
その両手をぽんと膝に置き、恋人の方に上体を乗り出すようにした。
「との赤ちゃんが、欲しいなあって」
「・・・えっ」
反対に、はぐっと身を引いてしまう。
「あっあの、それはつまり」
の反応には構わず、アイオロスは変な熱っぽさで話を続けていた。
「俺、子供の世話には慣れているから大丈夫。任せて」
「そっそりゃあ、慣れてるんでしょうけど」
大丈夫って、何が!?
アイオロスは尚も何か言いかけた口をつぐみ、改めて、を見つめた。
明るい輝きを宿した瞳に射られれば、身じろぎも出来なくなって。ただ、見つめ返す。胸の鼓動が高まりゆく中で。
「家族を、作りたいって思ったんだ。となら、素晴らしい家族ができるだろうなって」
「アイオロス」
空白の中で、は目をしばたく。
「そっ、それって、プロポーズ?」
半ば咳きこむように尋ねかけた。
場所はいつもの人馬宮、平日の何気ない時間、何でもない会話の続きみたいに。
「シチュエーションに凝ってもらって、指輪を差し出されて・・・っていうのが、夢だったんだけど」
言いながら、上ずっている声とほてっている顔。
そんなを見ていたアイオロスは、深く微笑んで、すっと動いた。
の正面に片膝をつき、頭を下げる。誠実に、騎士のような気高さすら添え。
−君に、ひざまずくよ−
アテナを別にすれば、初めての、そして唯一の。
は、この最上の扱いに、面映さとそれ以上の大きな喜びとを感じ、表情をゆるめた。
「君に誓うよ」
片手をその厚い胸に置き、アイオロスは静かに顔を上げる。やわらかに、でも目には真剣な光をたたえて。
「一生、君のそばにいて、君を守る。君と将来の家族のために生きるから」
その幸せのために、すべて捧げるから。
「俺と結婚してください」
「・・・」
うやうやしく差し出された手を取った。少し、震えた。
無駄のない動きで立ち上がった彼に促され、も腰を上げた。夢のような気持ちで、ずっと背の高い恋人を見上げる。
うるんだ瞳をそらさず、わずか頷くだけで良かった。それが返事と、約束になる。
「大好きだよ!」
苦しいほど強く抱きしめられた。
窒息しそうなほど幸福感に襲われて、目をつぶる。泣いてしまいそうだった。
それから一年半ほどの後。
窓から差し込む金色の光に包まれながら、は椅子の背もたれに身を預けている。
豊かな胸には、ライトブラウンの髪をした赤ちゃんが、すやすやと眠っていた。
ふっくらまるいほっぺを、ぷくぷくした腕や足を、この上ない慈愛のまなざしで見つめ、微笑む。
長いまつげと、早くも頼もしく見える顔立ち。と名付けたこの子は男の子で、まだ赤ちゃんながらお父さんに本当によく似ているのだった。将来が楽しみで仕方なくて、はついニヤけてきてしまう。
こうして、ただ見つめているだけでも楽しい。だって、愛して一緒になった人にそっくりなのだから。
「おはよう、」
ひとりであやしくニヤニヤしているところに声をかけられ、びくっとする。見上げると、夫が起きてきたところだった。いつもの笑顔は力強く優しくて、を元気にしてくれる。
「おはようアイオロス」
「は、寝てるのか」
身をかがめて、息子の顔を覗き込むと、もうとろけてしまいそうな表情になる。そんなアイオロスを見ているだけで、もほんわかした気分に包まれるのだった。
「いつも夜中、大変だね」
まだほんの赤ちゃんだから、昼夜に関わらず泣く。そのたびも起きて、お世話をしてあげなければならなかった。
「うん、でも大丈夫。自分でも不思議なくらい元気よ」
本当に元気に笑える。素敵なだんな様と、こんなにも可愛い赤ちゃんがいて。夢にすら描けなかったほどのこんな生活、辛いだなんて思う隙もない。
「」
腰をかがめたままで、こちらを見ているアイオロスの瞳は、いつもよりぐんと明るく澄んでいる。なんて、朝陽のきららかで透明なこと。
その光の中、すっと目を細め、柔らかな声で彼は言う。
「ありがとう」
家族になれて嬉しい。
いつもそばにいてくれることが、何気ない毎日が、最上の幸せだと思えるから。
は、ますますにっこりと笑った。
「こちらこそ」
二人が三人になって、もっと楽しい。
胸の中、安心しきって眠り続けている赤ちゃんを見下ろし、もう一度顔を上げる。
髪を撫でられ、うっとり目を閉じた。
そっとそっと、キスを交わした。
・あとがき・
久しぶりにドリームを書きました。産休に入ってから、小説を書く時間が激減したもので。
そうそう、6/17に、可愛い女の子が生まれましたよ〜!
しかし、それから更に書けなくて。
時間がなくて、ということではないのです。書きたいときは、少しの時間でも利用して書くものですから。
ただ、上の娘のときもそうだったけれど、赤ちゃんを産んだ後って、小説を書く気がどういうわけかなくなってしまうんですよ。
日記は書き続けているので、書くこと自体はやめられないんだけれど。
二回目なので、私は焦りませんでした。必ずまた書きたくなるから。だって、小説を書かない私は私じゃないもの。
案の定、最近、だんだん書きたくなってきて、このドリームを書き上げました。
書き始めたのは産後、実家にいたときだったんだけれど、途中で筆が止まって。書きたくなるのを待って仕上げたので、あとがきといっても、この作品についてどう思っていたのか忘れてしまいました(笑)。
とりあえず、自分に赤ちゃんが生まれたことで、思いついた話で。書きやすいキャラのアイオロスで。
ああそうそう、ひざまずいてもらいたかったのよね。黄金聖闘士にひざまずかれる。スゴイことではないですか!
プロポーズのところなんか、一輝の「CD/MD?」とかぶっている気もしますが、これだけたくさんドリームを書いていたらかぶることもあるだろうと開き直ってしまいました。
それから、カッコいい人が旦那さんで、その赤ちゃんがお父さんそっくりの男の子だったりしたら、ちょっと不埒ではありますが、顔を見るたび嬉しいんじゃないかな。しかも黄金聖闘士の息子だったら、ほんとドリームだよね! と盛り上がっていたんだった。思い出しました。タイトルはまたまたCHARAの歌からで、「すばらしい僕らの家族を作ろうよ」「行かないでね、ひざまずくよ」という歌詞からイメージをもらっています。
私自身、昔から休日の家族というものを見るたび、「いいなぁ」とほんわかしていました。実際自分も結婚して子供が生まれて、休日に出かけるときなど、本当に夢が叶ったんだな、といつも幸せ気分になります。
夫と一緒に、子供を連れて。ああ、これぞみんなに憧れられるような、幸せ家族だよ。と自分で浸っているわけで、怪しいといえば怪しいんですけど(笑)。
下の娘がもう少し大きくなれば、もっと楽だなぁ。抱っこで連れて歩くのは結構大変なので。小説を書くのは久しぶりだったので、いまいちカンが戻りきっていない気がします。
いえ、仕上がりが不満というわけでは決してないんですが、スラスラっと書ける感じではなかったなあと。
ま、書いているうちに戻るでしょう。
これからまた、ぼちぼち書けたらなと思っています。
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