baby baby
「アテナに最も忠誠心の厚い聖闘士は、俺だと思ってる。それが俺の誇りなんだ」
「映画? その日は無理だな。アテナの護衛がある。・・・他の奴に代わってもらえだと? 個人的な用事で大事なお役目を交代などできるか」
「済まん、明日はアテナに頼まれた仕事があって、朝早いんだ。今日はもう帰ってくれるか?」
「・・・ねぇ、シュラ」
今朝からずっとムクれているのに。こうして名前を呼ぶ声だって、わざととんがらせているのに。彼は全ッ然気付いていない。
それとなく匂わせたところで、通じる相手ではないのだ。ニブいから。
業を煮やしたは、恋人に近付くと、彼が読んでいる新聞を取り上げた・・・いや、取り上げようとした。
聖闘士の反射神経が働いたか、不意にシュラが新聞を持つ手に力を込めたので、成功しなかったのだ。
「読みたいのか? もう少し待ってろ。どーせおまえ、テレビ欄しか見ないんだろ」
ソファに脚を組んで、どっかと座ったまま、目を上げもしない。
は作戦を変えることにした。シュラの背後に回ると、黒の短髪を引っ張ってやる。
「いてっ、何だよコラ」
やっぱり新聞から目は離さず、右手だけを後ろに伸ばして撃退しようとする。
「シュラ〜、今日のお昼、一緒に食べようよ」
「今日はアテナとご一緒するって言ってたろ」
そんなこと、知っている。知っているからわざと誘ったのだ。
「そっちはキャンセルしてさ、カノジョのあたしと食べようよ」
「その言い方は何だ、アテナとの用事を何だと思ってんだ」
声に怒気が含まれたことで、ますますは面白くなくなる。
「シュラのバカ!」
今度は思い切り髪を引っ張ってやった。
「やめろ、だいたいうるさいぞさっきから」
「うるさいとは何よ。あたしとアテナとどっちが好きなの? どっちが大事なのよー!?」
迸る感情は止められない。はソファを乗り越えた。シュラの隣で立ち膝の格好になり、ぐいと詰め寄る。
「いっつもアテナアテナアテナアテナアテナって、あなたの彼女は誰なのよ! さあ答えてよ、アテナとあたし、どっちが大事なの!?」
「・・・バカなこと、聞くな」
怒りを通り越して、もはや呆れている。それでもシュラは読みかけの新聞は畳んで傍らに置いた。
「バカなことじゃないわ、これは大問題よ! いつもアテナ最優先であたしは後回しでしょ、あたしのことないがしろにしてるでしょ!」
シュラの態度はますますを激昂させる。
そんなところも可愛いな、と、シュラは余裕なものだったが。
「ないがしろになんて、してないだろ」
「それじゃ、あたしとアテナが崖から落っこちそうになってたら、どっちを助ける?」
「ガケから落っこちそうにって」
真剣な顔でムチャなことを言うから、思わず笑ってしまう。
「笑い事じゃないわよ、どっちを助けるの?」
にじり寄って答えを迫る。
シュラは崖にぶら下がるの図というものを頭の中に展開して、余計笑いたくなっていたが、表面には出さずにさらりと答えた。
「両方、助けるさ」
「そんなのナシ! ひとりしか助けられないとしたら!?」
「両方助ける」
今度は強く繰り返して、左腕にぐいっと抱き寄せる。
「そのための、力だ」
目の前に差し出された右手と、愛しいシュラの顔とを、は交互に見た。
そう、彼のこの手は、研ぎ澄まされた聖剣・エクスカリバーだ。
聖なる右手を、両手で包み込むように握ってみた。大きくて、力強くて、温かい。
「この手で、守る」
「・・・うん」
それ以上に望む答えなど、あるだろうか。
はシュラの手に触れたまま、彼を見上げた。
その比肩するものなき力と自信に、この上なく惹かれている。
「今日はムリだけど、明日、うまいメシ食いに行こう」
そしてこの優しさ、誠実さにも。
「うん。がいいな。絶対よ!」
「約束だ」
指きりをして、笑い合う。子供じみた真似事すら、二人だから楽しくて。
「ねえ、アテナとあたしが溺れかけてたら、どっちを助ける?」
「まだ言うか」
繰り返しのゲームだって、分かってはいた。その証拠に、はニヤニヤ笑っている。
「アテナとおまえじゃ、『大切』の意味とか種類が違うだろ」
「どんなふうに違うの?」
単なる言葉の遊びだったのに、今や誘いの方向に流れている。がそれを意識していようといまいと。
シュラはフフン、と笑って、をソファ上に押し倒した。
「教えてやろうか、その違いを」
「なっ何するのー」
「教えてやるって言ってんだろ。、おまえの体にな」
「ちょっ・・・」
それ以上の問答は無用とばかりに、の口をふさいでやった。自らの唇で。
柔らかい口腔内を存分に味わいながら、愛しい身体に触れてゆく。
「や〜ん、こんなことしてたら、アテナとの大事な約束に遅れちゃうわよ」
「すぐ終わるさ。が良すぎるから」
「もうっ、エッチ!」
「嬉しいクセに・・・」
磨羯宮の中、恋人たちだけが分かち合う秘密の時間が、甘く甘く過ぎてゆく−。
・あとがき・
聖闘士星矢エピソードGを立ち読みしたら、何故か浮かんだシュラのドリームです。
ありがちといえばありがちなんだけど、好きですね、こういうの。「仕事と私とどっちが大事なの!?」といった類の問いを恋人に投げかけるのは、私個人的には好きじゃないし、自分は絶対にしません。したことありません。
そもそも比べるものじゃないから。
ただ、愚かな質問と分かっていても、聞かずにいられない気持ち、ってのもあるかも知れないね。
ちゃんに問われて、カチンと頭に来ちゃうシュラ、というのも考えたんだけど、「それすら可愛いと思える」懐の広いシュラにしてみました。
オトナなシュラと、ちょっと子供っぽいちゃんというカップル。いかがでしょうか?
恋人と二人きりのシュラの、こんな言動を他の人が見たら、意外だと思うかも知れないなぁ。
ま、ラブラブ同士にしか見せない顔があるのは、当然のことだけど。そうそう、舞台としては、「ハーデス編が終わった後、みんな生き返ったよ設定」です。ドリーム小説ではこの設定を採用しているサイトさんが多いですから、私も乗っかってみました。こういう平和的な舞台が一番好きです。
なんかようやく「ドリーム小説らしいドリーム小説」を書けたような気がします。
いや、自分の心の中だけで感じていることなんですけど。
どうもオリキャラ小説に慣れているものだから、ドリーム小説だとちょっと勝手が違うような気がしていたのよね。
うまく言い表せないけど。
ドリームとしてベーシックっぽい形かな、こういうのが。と、勝手に思ったのです。タイトルはこれまたCHARAから。
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