オール・オア・ナッシング
「−っ、何するの、ミロ・・・!?」
大きな瞳を更に見開いて、は突然の抱擁から逃れようとした。
「何、って」
獲物を捕らえた余裕の笑みで、スコーピオンの聖闘士は、尚も強くの腰を抱き寄せる。
「おまえがして欲しいことを、してやるんだよ。」
有無を言わさず、口づけられた。
粘るようなキスを長く濃く受けながら、その腕の中、は徐々に力を失ってゆく。
「・・・ちが・・・うっ、私はこんなこと、望んでなんか・・・っ」
目尻にうっすら涙が浮かぶ。
ミロに対して、友達以上の思いを抱き始めているのは確かだ。でも、いきなりこんな展開を期待していたわけでは、決してないのに・・・。
「そうか?」
ミロはようやく手を離した。ふらついて、は窓枠によりかかる。その窓からは星明りが差し込み、の髪をやわらかく縁取っていた。
は、解放されても動けなかった。魅入られたように。
或いは、気付かないふりをしていた欲望が紐解かれたからかも知れない。
ミロは全てを分かっているかのように、悠然と、そんなを見つめていた。
その視線にすら犯されているような気がしてくる。ぞくりとする。・・・見られて、感じている。
青の・・・、いつも地中海に似ていると憧れていた両の瞳が、今夜はなんて蠱惑的な色を帯びているのだろう。
じらして楽しむかのようにたっぷり間をおいてから、ミロは片手を差し出した。ノースリーブの逞しい腕、広い胸がセクシュアルで、の心を奪う。
「おいで」
甘やかな口もとの笑みと声に、逆らえるはずもない。
は、よろめくように、自分からミロの腕に身を委ねた。
「いきなりこんなふうにしてしまって・・・嫌われるならそれでも仕方ない。でも、どうしようもなく、今夜おまえが欲しい」
技巧を尽くして前戯を施しながら、ミロは囁いた。
「欲しいと思ったら全て欲しくなる。・・・君の全てを手に入れられないなら、いっそ何もいらないんだよ」
オール・オア・ナッシング。
いつも明るく接してくれていたミロが、こんなにも極端な性情の持ち主だとは夢にも思わなかった。
だが、惹かれる。それゆえに強く惹かれる。
「・・・ミロ・・・」
彼を呼ぶ声も、息の下に沈み込む。は両腕を伸ばし、ミロの首にからめた。
嫌われるとか、何もいらないとか。彼はそんなことを言うけれど。
嘘だ、きっと、そんなのは。
拒まれるなんて、恐らく夢にも思っていまい。全てを手に入れて当然だと思っているのに違いないのだ。
蠍座の黄金聖闘士は、恐ろしいほどの自信家なのだから。
そっと目を開けると、思った通り、傲慢なほどの笑みを浮かべて、ミロは自分を見ていた。
「これが、望みだったんだろ・・・?」
の中に進み入る。甘い声を満足そうに聞いて、が喜ぶような動き方をした。
熱いものを体の中に感じながら、は見えない鎖に繋ぎ止められてゆく自分自身の姿を見ていた。
彼にひざまづき、隷従して、誓わされる。
一生、あなたのものになります、と・・・。
「女の子って、『永遠』って言葉が好き、ってよく言うだろ」
「・・・うん、好きかも」
二人並んで横になっているベッドルームに、さっきまでの激しさはない。
ミロに優しく腕枕をしてもらい、は満たされていた。
「笑うかも知れないけど、俺も好きなんだ。永遠の愛っていうのを、信じたり、してる」
ピロートークは、すっかりいつもの調子で。まるでさっきとは別人だ。
そっと、ミロの顔を見て、は静かに息をした。
こんな風に触れ合って、こんなにも間近でミロの声を聞いている。
不思議な気分。今夜を境に、友達から一足飛びに恋人になってしまうなんて。
「笑ったりしないよ。私も、信じてるから」
「・・・良かった」
ミロは体を起こした。の両手首を枕に押し付けるようにして、キスをする。
くせのある金の髪が素肌に触れて、はくすぐったかった。
「、おまえを一生愛するよ」
心と体を、全身全霊で愛してくれるのを、感じていた。
身動きも取れない。けれど、構わない。
それは自身が望んだことでもあるのだから。
もし一度でも裏切ったら、この愛を全て失ってしまうだろう。
ミロの深い情愛に、同じくらいの誠実さでもって応えなければならないことを、は体で思い知らされていた。
(愛するわ・・・ずっと。一生)
約束のしるしのように、強く抱き返した。
全てが欲しい。手に入らないのなら、何もいらない。
答えはいつも、二つに一つ。
オール・オア・ナッシング。
・あとがき・
こういうミロが私の思うミロなのでありました。
フェロモンむんむん。
オール・オア・ナッシングは、蠍座のキーワードです。美川憲一の「さそり座の女」にもあるように、蠍座の愛は重いっすよ。もぉそりゃウザいわってほどに。
しつこいし。嫉妬深いし。裏切ったら恐ろしいことになります。
その代わり、いつまでも誠実に愛してくれるでしょう。何度も言っているけど、かづなも蠍座の女。
もしも夫が一度でも浮気をしたら、離婚するわ。と常日頃思っています。
永遠の愛。もちろん私も信じております。「夢だな」とミロに言われちゃうでしょうか。いきなり親密になりすぎのミロとちゃん。
でもこんなドリームがあってもいいんじゃないかな?
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