アフターハロウィン
ハロウィンなんて、子供の行事。
聖域には、ましてや黄金聖闘士には関係ない。
そんな思いは皆に共通のはずだったけれど、名目は何であろうと飲んで騒げればそれでいい! という一部の意見を止める者もいなかった。
かくして、10月31日の夜は、天秤宮を会場に、ハロウィンパーティという名の宴会が開かれることとなったのである。
「貴鬼、どうしたのですか、その格好は」
「へへっ。お姉ちゃんが作ってくれたんだ!」
ムウは、黒い衣装を着て大はしゃぎの弟子を見て、首を傾げた。
黒の服はスカートのワンピースで、頭には大きな赤のリボンを結んでいる。そして手にはホウキと黒猫のヌイグルミ。
「魔女・・・?」
「だってムウ、キキって言えば宅急便やってる魔女でしょ!」
仕掛け人がやってきて、チベット人にはちょっと理解不能な説明をしてくれる。
「おお、似合ってるじゃないか貴鬼」
アルデバランが大きな手を魔女っ子の頭にぽんと乗せる。貴鬼は嬉しそうに笑った。
「は仮装しないのか?」
「仮装するのは子供だけでしょ」
からかいたがっているのは分かっているから、わざとそう言うと、ミロはすぐに乗ってきてくれた。
「子供じゃないかは」
「子供じゃないよ〜」
「そーやってムキになるところが子供なんだよ」
頭をぐりぐりされて、じゃれ合っては大声で笑う。
周りから見れば、どっちも子供のようなものだった。
「大人だって言うなら、飲めよ」
デスマスクに差し出されたグラスを素直に受け取るが、形だけ口をつけるにとどめる。今日は酔っ払うわけにはいかないのだ。
「何じゃ何じゃ、もっとぐーっと行かんかい!」
「きゃ〜やめて童虎! せっかくの一張羅!」
せっかくのパーティだからと張り切って、カボチャ色の可愛いミニドレスで決めてきたのに、酒なんてこぼされたらたまったものではない。
「さーて今日こそはの本命を聞き出さなきゃな」
宴もたけなわ、酔いに紛れて本音を聞き出そうとする輩がを取り囲むように集まってくる。
「何でそんな」
「知らないのか? ハロウィンの夜は、自分の好きな相手をバラし合うきまりがあるんだ」
もっともらしいアフロディーテの言葉をしっかり信じてしまうだが、無論、そんなのは大ウソである。
「えー、じゃあ、みんなも言わなきゃ」
「俺たちの本命?」
「それはもちろん」
「「「だ」」」
みんなの声が重なった。そのタイミングの良さと迫力に押されて、は二の句が告げない。
「・・・何よみんなで一緒になって、冗談ばっかり・・・」
「冗談じゃないんだけどな」
しかし、こんな席でいくら本音を言ったって、まともに届かないであろうことは皆にも分かっている。ただの気持ちが誰にあるかを聞き出せればしめたものだ。
「今更隠すことはないぞ、。私のことが好きならそうハッキリ言えばいいのだ」
「いやぁ、別にそんなことは・・・」
いつものように尊大なシャカの言葉に返事を濁しつつ、はちらっと目線を外す。
目印は赤の長い髪・・・。
水と氷の魔術師と呼ばれる、水瓶座のカミュ。
彼こそが、そう、の大本命なのだった。
カミュは、自分たちとは別の輪の中で話をしている。鮮やかな赤と冴え冴えとした顔立ちは、ひときわ目立って見えた。
一見誰とでも打ち解けるけれど、広く浅い付き合いしかしないようで、にはその本音を垣間見ることがなかなか出来ない。
或いはミロならカミュについて色々なことを知っているのかも知れない。けど、酔ってバカ騒ぎをしているミロを見ては、何も聞き出せないだろうとため息をつくしかなかった。
カミュはこんなとき、ある程度の時間が経つと、いつの間かにいなくなってしまっている。
だが、今夜に限っては、誰にも知られずに帰るというわけにはいかなかった。
(あ、もう行っちゃうんだ)
だけはちゃんと見ていた。さりげなく席を外すふりをして、自分も天秤宮を抜け出してしまう。
パーティに乗じて、にも考えているところがあったのだ。
別に、皆と騒ぐのが苦痛だとかいうのではない。単に自分でいいときに引き上げているだけ。
何事に関しても執着しない性格がこうさせていると、分かっていた。
そして、それがマイナスに働くことが少なくないということも。
宝瓶宮でひとり、何をするということもなく、カミュは時間と気持ちを持て余す。
トントン、とノックの音がしたのは、そのときだった。
ドアを開けると、カボチャ大王が星のついたステッキを手に立っていた。
巨大なカボチャをくりぬいたお面に王冠を載せたものをかぶり、マントを羽織って。
不意打ちに驚きはしたけれど、誰の仮装かなんてすぐに分かったから、ドアを広くすると子供に接するように軽く屈んだ。
「お菓子が欲しいのか?」
ハロウィンの夜、仮装した子供たちのお目当てはお菓子と決まっている。
わざとそう言うカミュの前で、はカボチャのかぶりものを取った。
「欲しいのは、お菓子じゃないよ」
ちょっと大胆になってみる。ハロウィンの力を借りて、カミュのペースを崩してみたかった。
「冷えてきたな。中に入ればいい」
それでもやっぱりカミュは、顔色一つ変えないけれど。
カミュが入れてくれた熱いロシアンティーは、の大好きな飲み物だった。
「皆はまだ騒いでいるんだろう?」
言外に『何故わざわざこんなところに来た?』と滲ませて、それでもそれは迷惑そうではなかった。むしろ、少し不思議そうに。
は何だか幸せな気分になって、温かな湯気に包まれ軽く目を伏せる。
「・・・今夜はハロウィンだもの。奇跡が起こるかも知れないと思って」
答えになっているような、なっていないような。
でも、何か特別なことが起こりそうな胸のさざめきを、もしも共有できたら素敵。
「あ、それから、これ食べて欲しくて」
テーブルに大きなタッパーをドンと出して、ふたを開けて見せる。
「じゃ〜ん!」
「・・・何だ、これは」
「カボチャの煮物! あたしが作ったの!」
ほくほくおいしそうに煮えて、綺麗なオレンジ色をしている。
「レンジ借りるね。あっためた方がおいしいから」
さっと立ち上がるの楽しそうな笑顔に、つい見とれて。カミュは静かに息をつく。
「お前は、いつも先を読めない行動をするな」
「面白いでしょ?」
ふふっ、と笑って、振り向いた。
「あたしといれば、いつも面白いよ!」
ドキドキしながらカミュを見守る。最大の望みを込めて。
カミュは、ふっと微笑んだ。滅多に見ることのできない、の一番好きな表情だった。
「・・・そうだな」
勝負をかけたつもりだったのに、何だかはぐらかされたみたい。
レンジがピーと鳴ったので、はカボチャを取りに行く。カミュも一緒に立ってきて、小窓から外を覗いた。
「ちょうど、月が見える」
「ああ本当、綺麗。魔女は飛んでいないかな」
ホウキに乗って、きらきら光る魔法の粉を振りまいて。
肩を包み込むように抱かれ、不覚にもぴくんと震えてしまった。
そっと目を上げると、思ったより近い位置にカミュの瞳があって。見とれているうち、上手に唇を盗まれた。
軽いキスだけで、めまいがしそう。カミュが平然としているのが悔しい。
こっちが振り回してやりたいのに、気が付けばいつも振り回されているような。
でも、こうやって抱き寄せられて、一緒に月を眺めていれば、とても幸せで胸が熱くなる。
明るい月の上を、魔女のシルエットが横切ったような気がした。
アフターハロウィンは、大好きな人と。
二人きりの秘密を作りたいね。
・あとがき・
「阿頼耶識」さんのハロウィン企画用に書いたドリームです。
せっかくの企画なので、今まで書いたことのない人のドリームを書こうと思い立ちました。
やはりここはカミュで! カミュって星矢の中で一番好きなキャラなんだけど、今までカミュ単独のドリームを書いたことがなかったからね。
ちょっとドキドキしつつ、チャレンジしてみました。色々言われているけれど、やはり私はカミュをクールな人として書きたいです!
ちゃんは元気な女の子で、すんなりカミュの心の中に入っていっちゃう。
色々意表をついて、彼を崩したい、驚かしたいと思っているんだけど、カミュの方が一枚上手のようです。
でも、ちゃーんとちゃんに参ってくれているんだけどね!ハロウィンという行事自体が馴染み薄いので、はたしてハロウィンの夜、大人たちは何をしているのか、とか、ハロウィンは子供の行事という感じなのかとか、よく分からないで書きました。間違っていたらゴメンナサイ。
実際、聖域ではハロウィンをどのようにとらえているんだろうか。ハロウィンには月がよく似合いますね。ちょっとメルヘンちっくな感じにしてみました。
H15.10.12
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